家族信託の事例7選|認知症・実家・二次相続での使い方と向かないケース

家族信託の事例を認知症対策・実家・二次相続から考える家族のイメージ

「親が元気なうちに家族信託を考えた方がよいと言われたけれど、うちの場合も必要なのだろうか」。家族信託は言葉だけが先行しやすい制度です。認知症に備えたいのか、実家を売却できるようにしたいのか、配偶者の次の承継先まで決めたいのかで、契約に入れる内容も、選ぶべき別の方法も変わります。

結論からいうと、家族信託は「誰に、何のために、どの財産を、どこまで任せるか」が具体的な家庭ほど検討しやすい仕組みです。反対に、家族の話合いができていない、託す財産がほとんどない、相続人間の紛争がすでに強い場合は、信託契約だけで解決しようとしない方がよいこともあります。

この記事を要約すると
  • 家族信託は、親などが決めた目的に従い、信頼できる家族へ財産の管理・処分を託す方法です。
  • 認知症への備え、実家の売却、賃貸物件の管理、二次相続など、目的別に契約内容を考える必要があります。
  • 家族信託で解決しにくい事例もあるため、遺言・任意後見・税理士や弁護士への相談も含めて比較することが大切です。

この記事をおすすめしたい方

  • 親の認知症に備え、自宅や預貯金の管理を家族で準備したい方
  • 実家・賃貸不動産を、将来も止めずに管理・売却できる形にしたい方
  • 家族信託、家族信託 事例というキーワードで記事をお探しの方

1. 家族信託の事例を見る前に|まず「何を止めたくないか」を決める

家族信託では、財産を託す人を委託者、実際に管理・処分する人を受託者、財産から利益を受ける人を受益者といいます。親自身が委託者と受益者になり、子が受託者になる設計がよく検討されます。

e-Gov法令検索の信託法第2条・第3条は、信託を、一定の目的に従って財産の管理や処分を行う仕組みとして定めています。大切なのは「子に財産をあげる契約」と誤解しないことです。受託者は、自分の財産として自由に使うのではなく、信託契約で定めた目的と権限の範囲で管理します。

家族の困りごと 家族信託で検討すること 併せて考える方法
親が認知症になった後も、預金や不動産を動かしたい 誰が、生活費・介護費・売却を判断するか 任意後見、遺言
実家を空き家にせず売却したい 売却権限、売却代金の使い道 遺言、成年後見
賃貸物件の管理を引き継ぎたい 家賃・修繕・帳簿・後継受託者 法人化、遺言
配偶者の生活を守り、その後は子へ渡したい 受益者の順序、信託終了後の帰属先 遺言、税理士との試算

以下は制度の使い方を理解するための想定事例です。同じ家族構成でも、財産、健康状態、相続人同士の関係で結論は変わります。

家族信託の基本から確認したい方は、民事信託・家族信託とは?認知症対策・仕組み・注意点を解説をご覧ください。

2. 家族信託の事例7選|わが家に近いケースで考える

2-1. 事例1|母の認知症に備え、生活費が止まらないようにしたい

78歳の母Aさんは一人暮らしで、自宅と預貯金を持っています。長女Bさんは、最近Aさんが公共料金の支払いや通帳管理を忘れることが増えたため、「判断能力が低下した後も、介護施設費や自宅の修繕費を払えるようにしたい」と考えています。

この場合、Aさんを委託者・受益者、Bさんを受託者として、生活費・医療費・介護費などのために信託財産を管理する設計が検討されます。信託する預貯金の範囲、毎月の生活費、施設入居時の支出、自宅を残すのか売るのかを先に決めます。

契約は、本人が内容を理解して意思表示できるうちに結ぶ必要があります。すでに契約内容を判断できない状態なら、家族信託を後から作ることは難しく、成年後見の利用などを検討します。また、信託していない口座は受託者が自由に動かせるわけではありません。

2-2. 事例2|施設入居後の実家を、子が売却できるようにしたい

父Cさんは自宅で暮らしていますが、将来は介護施設へ移る可能性があります。長男Dさんは「空き家になった実家を売り、その代金を父の施設費に充てたい」と考えています。しかし、Cさんが認知症になった後では、売買契約の判断や署名ができず、売却が進まないおそれがあります。

そこで、自宅を信託財産とし、Dさんが受託者として、Cさんの生活・介護のために売却できる権限を定めることがあります。不動産を信託する場合は、通常、信託による所有権移転と信託登記を行い、受託者の固有財産と区別します。登記手続の全体像は、法務省の登記・供託オンライン申請システムの不動産登記手続案内でも確認できます。

ただし「売るかどうかは子の判断に任せる」だけでは、家族の納得を得にくいことがあります。売却の目的、最低限の判断基準、売却代金を誰のためにどう使うかを具体的にしておくことが重要です。

2-3. 事例3|父の賃貸アパートを、長女が管理し続けたい

父Eさんは自宅のほか、小規模な賃貸アパートを所有しています。家賃は老後の生活費になっており、修繕の判断や入居者対応をしている長女Fさんに、将来も管理を続けてほしいという希望があります。

この事例では、受託者であるFさんの役割を、家賃の受領、修繕費の支出、賃貸借契約の更新、必要に応じた売却まで、どこまで認めるか整理します。特に、家賃と修繕費を受託者自身の家計と混ぜないこと、通帳・帳簿・領収書を分けること、後継受託者を置くかを事前に決めることが欠かせません。

家族信託は、管理を担う子に所有権を丸ごと贈与する方法とは違います。Fさんの負担だけが増える設計になっていないか、報酬や実費をどうするか、他の相続人へどのように説明するかまで話し合いましょう。

家族信託の事例別に認知症対策・実家売却・賃貸物件・二次相続の目的を比較する図解
図表:家族信託は、目的ごとに必要な権限と、家族で共有すべき事項が異なります。作成:あいりん司法書士事務所

2-4. 事例4|再婚後の妻を守り、妻の次は自分の子へ渡したい

再婚しているGさんは、妻Hさんが自宅に住み続けられるようにしたい一方、Hさんが亡くなった後は、前妻との子Iさんに財産をつなぎたいと考えています。遺言でHさんへ自宅を相続させると、その後の承継はHさん自身の相続関係に委ねられるのが原則です。

このような場合には、Gさん、Hさん、Iさんという順で受益者を定める受益者連続型信託を検討することがあります。e-Gov法令検索の信託法第91条は、受益者の死亡により別の人が新たな受益権を取得する定めを置く信託を規定しています。

一方で、受益者が変わるたびに税務上の検討が必要です。国税庁の受益者連続型信託に関する取扱いでは、受益者が無償で権利を取得する場合の相続税・贈与税の考え方が示されています。家族信託を作れば相続税が自動的に減るわけではありません。税額の見通しは税理士と確認し、遺留分を持つ家族がいる場合は弁護士への相談も検討します。

2-5. 事例5|障害のある長男の生活を、姉が支えられるようにしたい

Jさん夫婦には、日常生活で支援が必要な長男Kさんと、遠方に住む長女Lさんがいます。夫婦が亡くなった後も、Kさんの住居費や生活費を安定して支出できるようにしたい、Lさんに管理を担ってほしいという相談です。

このような事例では、誰が利益を受ける人か、誰が管理する人か、いつまでどの費用を支出できるかを明確にする必要があります。親亡き後の生活は、家族信託だけで完結するとは限りません。障害年金、福祉サービス、成年後見、遺言、生命保険などとの関係を、本人・家族・支援者と丁寧に整理します。

特に、Lさんが遠方で長期にわたり受託者を担えるか、後継者を置くか、Kさんの意思や生活を誰が見守るかを曖昧にしないことが重要です。税務や福祉給付への影響は個別性が高いため、社会福祉士や税理士などとの連携も考えます。

2-6. 事例6|兄弟の仲が悪く、父の財産を長男だけに任せたい

父Mさんの子は長男Nさんと次男Oさんです。二人は長年ほとんど話しておらず、Mさんは「Nさんだけに任せれば早い」と考えています。しかしOさんは、財産内容も管理方針も聞かされていません。

家族信託は、家族間の不信感を消す魔法ではありません。受託者を一人にすること自体はあり得ますが、情報共有が全くないまま設計すると、死亡後に「勝手に財産を移した」と受け止められ、遺留分や使途を巡る対立が強まるおそれがあります。

すでに紛争性が高い事例では、契約書を急いで作るより、財産一覧・家族関係・既存の遺言を整理し、弁護士に相談することが先になる場合があります。信託を使う場合でも、受託者の権限、報告の方法、誰が監督するか、終了後の帰属先を明確にします。

2-7. 事例7|預貯金だけなので、家族信託を作るべきか迷っている

母Pさんの主な財産は預貯金で、自宅は賃貸です。子Qさんは「認知症対策には家族信託がよい」と聞き、すぐに契約を作りたいと考えています。

この場合も、家族信託が絶対に不要とはいえません。しかし、管理したい財産の規模、銀行の手続、子が実際に担う事務、費用、将来の売却予定を比べると、遺言、任意後見契約、見守り契約などの方が目的に合うことがあります。方法を決める前に、Pさんが「何を一番心配しているのか」を言葉にすることが先です。

つまり、家族信託は商品を選ぶように決める制度ではありません。親の生活を守るために、いつ、誰が、何を判断できるようにしたいのかを起点に、必要な範囲だけを設計します。

3. 事例から分かる、契約前に必ず決めたい6項目

  1. 信託の目的:生活費、介護費、実家の管理・売却、賃貸物件の管理などを一文で説明できるか。
  2. 信託する財産:自宅、賃貸物件、預貯金のどれを入れるか。入れない財産はどう管理するか。
  3. 受託者の権限:修繕、賃貸、売却、金融機関での手続を、どこまで任せるか。
  4. 受益者と費用:誰のために利益を使うか、生活費・医療費・介護費をどう支出するか。
  5. 後継者・監督者:受託者が病気・高齢・辞任となったとき、誰が引き継ぐか。
  6. 終了後の帰属先:信託が終わる条件と、残った財産を誰が取得するか。

不動産を含む場合は、固定資産税の納税通知書、登記事項証明書、住宅ローンの有無、賃貸借契約書、修繕履歴を集めると検討が進みます。家族関係が複雑な場合は、戸籍や既存の遺言書も確認しましょう。

4. まとめ|家族信託は「家族の困りごと」を具体化してから選ぶ

家族信託は、親の判断能力が低下した後の財産管理、実家の売却、賃貸物件の管理、二次相続の準備などで役立つ可能性があります。一方、相続税を自動的に減らす制度ではなく、家族間の対立を契約書だけで解決する制度でもありません。

最初の一歩は、家族の誰が困るのか、止めたくない手続は何かを整理することです。司法書士には信託契約や不動産登記の相談を、税額試算は税理士へ、争いが予想される場合は弁護士へ相談することで、無理のない設計につながります。

5. よくある質問

5-1. 家族信託の代表的な事例は何ですか?

親の認知症に備えた預貯金・自宅の管理、施設入居後の実家売却、賃貸不動産の管理、配偶者の次の承継先まで決める二次相続対策などが代表例です。ただし、必要な権限や税務上の検討は事例ごとに異なります。

5-2. 親が認知症になった後でも家族信託を作れますか?

信託契約の内容を理解し意思表示できることが必要です。すでに判断能力が失われている場合は、新たな家族信託の契約は難しいため、成年後見など別の方法を検討します。

5-3. 家族信託をすれば、子は親の不動産を自由に売れますか?

自由に売れるわけではありません。信託契約で売却が認められ、その売却が信託目的に沿う必要があります。不動産を信託する場合は、通常、信託登記も必要になります。

5-4. 家族信託は相続税対策になりますか?

家族信託を作っただけで相続税が減るわけではありません。特に受益者連続型信託では、受益者が変わる時点ごとの課税関係を確認する必要があります。契約前に税理士へ相談しましょう。

5-5. 家族信託が向かないのはどんなケースですか?

本人が契約内容を理解することが難しい場合、家族間の紛争が強く話合いができない場合、目的に比べて管理負担や費用が大きい場合などは、遺言・任意後見・成年後見などを含めて比較が必要です。

5-6. 家族信託の相談前に何を用意すればよいですか?

家族関係が分かるメモ、財産一覧、不動産の固定資産税納税通知書・登記事項証明書、預貯金の情報、既存の遺言書や保険証券を用意すると、目的と必要な設計を整理しやすくなります。

この記事の監修者

司法書士 梅澤 徹

司法書士・行政書士 梅澤徹

この記事の監修者

司法書士・行政書士 梅澤 徹(うめざわ とおる)

あいりん司法書士事務所 代表。神奈川県司法書士会(第2259号)・神奈川県行政書士会(第15090451号)所属。相続手続き3,000件超をサポート。プロフィールを見る 無料相談のご案内

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