相続放棄申述受理証明書が必要なケースと取得方法・かかる費用を解説

申述受理証明書は、「相続放棄しました」という事実を対外的に証明するための書面です。

被相続人に借金があり、債権者から返済請求された場合などに「自分には借金返済の義務はありません」ということを主張するために使用します。

他にどんな時に必要になるのか、取得するにはどうしたらいいのかなど気になる方も多いでしょう。

この記事では、申述受理通知書との違い、申述受理証明書が必要となる場面、取得方法などについてわかりやすく解説します。この記事を読むことで、相続放棄したら一度は確認しておくべき点を把握できます。

申述受理証明書とは

申述受理証明書とは、「相続放棄が正式に認められたこと」を自分以外の人に証明するものです。

被相続人に借金があった場合、これを提示することによって債権者に「私は相続放棄したので返済の義務はありません」という事実を証明でき、借金を支払わずに済みます。

注意すべき点は、何もしなくても自動的に発行されるわけではなく、改めて家庭裁判所に申請しなければ取得できないという点です。詳しく解説していきます。

申述受理通知書との違い

相続放棄した後、受け取れる書類には次の2点があります。名前はよく似ていますが、全く別のものです。

以下、違いについてまとめました。

 

申述受理証明書

申述受理通知書

目的

相続放棄したことを対外的に証明する

相続放棄が認められたことを本人に知らせる

発行

家庭裁判所に申請後、発行

自動的に発行

手数料

150円

無料

再発行

回数や枚数に制限なく可能

不可

取得できる人

・相続放棄した本人

・他の相続人

・利害関係人

相続放棄した本人に限る

目的や取り扱いが違うため、混同しないよう気をつけましょう。

発行までの流れ

申述受理証明書が発行されるまでの流れです。

  1. 相続放棄の申述
  2. 申述受理通知書が送付される
  3. 必要に応じて申述受理証明書の申請書を提出する
  4. 1週間程で申述受理証明書が発行される

申述受理証明書は、必ず発行しなければならないものではありません。相手方から提出するよう要求があったとき、状況に応じて申請すれば問題ありません。

申述受理証明書が必要なケース

実際には申述受理通知書のコピーを提示すれば十分であることがほとんどです。次のような場面では相手方の要求により、申述受理証明書の提示が必要となることがあります。

債権者に相続放棄した事実を証明するとき

債権者から借金の返済請求書や督促状が届いた時に「私はすでに相続放棄しています」ということを直接知らせる必要があります。相続放棄したことは本人しか知り得ないため、債権者は何も知りません。

返済請求も誰にすればいいかわからない状況にあるため、改めてお知らせしなければなりません。ほとんどの場合は申述受理通知書のコピーを送付すれば支払いを拒否できますが、場合によっては申述受理証明書でなければ受け付けてもらえないことがあります。

その場合、自分自身で申請しなくても債権者が申請できるため、独自に申請してもらうようにしましょう。これにより、今後借金の返済請求が来ることはなくなるでしょう。

申述受理通知書を紛失したとき

紛失してしまった場合、再発行はされません。紛失してしまった後で相続放棄したことを証明するには、申述受理証明書の発行を受けなければなりません。この場合、事件番号と受理年月日は照会制度を利用して確認できます。

照会制度の詳細については後ほど解説します。

金融機関で相続手続きをするとき

他の相続人が金融機関で被相続人の預金口座の解約・払い戻し・名義変更するには、金融機関に対して相続放棄した人がいることを知らせなければなりません。そのため、相続放棄受理証明書が必要です。

不動産の相続登記をするとき

他の相続人が不動産の相続登記をするとき、相続登記の添付書類として申述受理証明書を法務局に提出します。相続放棄した人がいることを法務局に知らせなければ相続登記できません。例を挙げてみましょう。

被相続人A、Aの子である相続人B・Cがいて、相続人Bが相続放棄したとします。相続人Cが土地の名義をAからCに変更するためには、Bの申述受理証明書を提出しなければなりません。

法務局の認識では相続人がBとCであるため、Cに対してのみの相続はできないからです。Bが正式に相続放棄したという事実が明らかになれば、Cは相続登記できます。

平成27年6月より取り扱いが変更され、現在では申述受理通知書でも代用できるようになりました。(平成27年「登記研究」第808号)

申述受理証明書の取得方法

取得方法は、申請する立場によって変わります。それぞれ見ていきましょう。

申請手順

申請手順は次の通りです。

  1. 申述受理証明書の申請書に必要事項を記入
  2. 収入印紙を申請書の所定の位置に貼付
  3. 被相続人が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所に提出

収入印紙は法務局、郵便局、一部のコンビニで入手できます。

相続放棄した本人が申請する方法

申述受理通知書とともに送付される申述受理証明書の申請書に必要事項を記入・押印し、150円分の収入印紙を貼付します。

同封の申請書は後々使用するかもしれません。コピーして保存しておくといいでしょう。

発行までには1週間ほどかかります。申請は、家庭裁判所の窓口に持っていくか郵送のどちらかを選べます。

窓口で申請する時の必要書類と費用

必要となる物は次の通りです。

  • 相続放棄受理証明申請書
  • 収入印紙150円分
  • 身分証明書(運転免許証・健康保険証など)
  • 認印(スタンプ式は不許可)
  • 申述受理通知書がある場合には原本もしくはコピー(ない場合には裁判所に相談してみてください)

相続放棄を申し立てた時と現在の氏名・住所が変わっている人は、繋がりがわかる戸籍謄本を用意します。提出先の裁判所により必要書類が違うため、前もって確認しておきましょう。

提出は窓口まで本人が持参しなければなりません。かかる費用は、1通につき手数料150円です。

郵送で申請する時の必要書類と費用

郵送での申請で必要になるのは、次の書類です。

  • 申請書
  • 収入印紙150円分
  • 身分証明書のコピー(運転免許証・健康保険証など)
  • 申述受理通知書のコピー
  • 返信用封筒(郵便切手を貼付、返信先を記載)

相続放棄を申し立てた時と現在の氏名・住所が変わっている人は、繋がりがわかる戸籍謄本を用意します。返信用封筒に貼る郵便切手の額は、申述受理証明書の希望枚数によります。

東京家庭裁判所の場合

希望枚数

郵便切手

1枚〜4枚

84円切手

5枚以上

94円切手

※裁判所によって額の指定が異なります。

事前に提出先の裁判所ホームページをチェックするか電話で確認しましょう。郵送で申請する場合の費用は、1通につき手数料150円と郵便切手代です。

相続放棄受理証明請書の入手方法と書き方

相続放棄受理証明申請書は、次の方法で入手できます。

  • 申述受理通知書のとともに送付される
  • 提出先の裁判所ホームページからダウンロード
  • 裁判所の窓口でもらう

申請書の作成は難しくありません。

提出先の裁判所ホームページにある記入例を参照して記入しましょう。(記入例

事件番号

申述受理通知書の記載通りに記入

受理年月日

交付または送達

窓口で受け取る:交付に◯をつける

郵送で受け取る:送達に○をつける

押印

認印(スタンプ印は不許可)

利害関係人が申請する方法

利害関係人とは、債権者や他の相続人が該当します。利害関係人の申請では、発行に1か月程かかることもあるので時間に余裕を持って手続きするよう注意しましょう。

必要書類

本人が申請するときの必要書類に加えて、次のように利害関係を証明する書類が求められます。申請する人の立場によって、求められる書類が違います。

申請者

必要書類

他の相続人

戸籍謄本、相続関係図など

債権者

契約書、被相続人の住民票除票など

法人

資格証明書(原本)

債権回収会社

債権回収に関する委託証明書(原本)

提出先の家庭裁判所や事案により異なるため、問い合わせましょう。

取得費用

費用は本人の場合と同じく、1通につき150円です。郵送で申請する場合は、それに加えて郵便切手代がかかります。

申述受理証明書の注意点

申述受理証明書の取り扱いは次の点に注意です。

  • 申請期限は30年
  • 再発行は何度でも可能
  • 申述受理通知書を紛失したら申述の照会が可能

ひとつずつ見ていきましょう。

申請期限は30年

裁判所で相続放棄の履歴が保管されるのは30年間です。それに伴い申述受理証明書の発行期間も30年間となり、それ以降は発行できなくなります。

債権の時効(借金の返済を請求できる権利)は5〜10年(民法166条1項)であるため、30年経ってから申述受理証明書が必要になることは考えにくく、特に困る事はないでしょう。あらかじめ財産調査を念入りにしておくと安心です。

再発行は何度でも可能

期限内なら回数に制限なく再発行が可能です。枚数に制限もありません。

心配であれば手元に複数枚置いておきましょう。

申述受理通知書を紛失したら照会が可能

申述受理証明書を取得するには、申請書に「事件番号」と「受理年月日」を記入する必要があります。

これらは申述受理通知書に書かれています。事件番号と受理年月日がわからないという場合、家庭裁判所に「相続放棄・限定承認の申述有無の照会」をすれば確認できます。

利害関係人も、この照会制度を使えば事件番号と受理年月日がわかります。相続人同士が不仲で非協力的なときでも、相手に連絡したり対応を待ったりすることなく独自で行えます。

照会の方法は、次の書類を被相続人が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所に提出するだけです。

  • 被相続人の住民票除票
  • 照会者と被相続人の関係がわかる戸籍謄本
  • 照会者の住民票
  • 相続関係図
  • 郵便切手を貼付した返信用封筒

照会は無料です。

まとめ

ほとんどの場合は申述受理通知書のコピーで受け付けてもらえるため、申述受理証明書が必要となる場面は限定的です。提出を求められた際は面倒に感じるかもしれませんが、不利益を被ることのないよう必要に応じて申請しましょう。

各種手続きで不明な点や不安がある場合、手続きが面倒なためすべて任せたいという場合は専門家にご相談ください。

この記事の監修者

あいりん行政書士法人    梅澤 徹

資格:司法書士・行政書士・宅建取引士

横浜市内の相続専門司法書士事務所で修行したのち独立。不動産が絡む難しい相続手続きが得意。宅地建物取引士資格も保有し、不動産コンサルティングには定評あり。

現在はあいりん行政書士法人と司法書士事務所を経営。相続専門5期目として相続業務を幅広く対応。

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