父が経営していた会社の株式を相続することになったものの、証券会社の口座には見当たらない。会社に何を伝え、誰が株主として手続きをするのか、戸惑う方は少なくありません。
非上場株式の相続は、株式数と株主を会社の資料で確認し、取得する人を決め、発行会社の株主名簿を整える流れで進めます。相続税の評価や申告は別に確認が必要です。亡くなった方が社長だった場合も、株式の承継と代表者を選ぶ手続きは分けて考えましょう。
この記事は、株式会社の非上場株式を持っていた方の相続人を対象にしています。個人事業には株式がありません。情報確認日:2026年10月31日。
この記事を要約すると
- 定款・株主名簿・株券の発行状況で、相続する株式の種類と数を確認します。
- 共同相続中の議決権と、最終的な取得者を決めた後の株主名簿の手続きを区別します。
- 非上場株式の相続税評価は額面や帳簿価格だけで決めず、税理士と申告の要否を確認します。
この記事をおすすめしたい方
- 親が持っていた家族会社の株式を、どのように引き継ぐか迷っている方
- きょうだい間で株式を分けるか、一人に集めるか検討している方
- 証券口座に見当たらない株式の名義変更先を知りたい方
目次
1. 非上場株式を相続したら、最初に何を確認する?
最初の連絡先は株式を発行した会社です。上場株式のように証券口座の残高だけで確認できるとは限りません。まず会社へ死亡を知らせ、故人が株主名簿上で何株を持っているか、株式に種類や譲渡制限があるか、株券を発行しているかを尋ねます。株主名簿の記載が古い場合は、過去の譲渡・贈与・増資の資料も突き合わせます。
会社の株式と、故人個人が所有する店舗・土地・貸付金は別の財産です。会社の借入金と故人個人の連帯保証も混同できません。株式だけを見て相続全体の財産や債務を判断しないようにしましょう。
| 資料 | 確認すること |
|---|---|
| 定款・登記事項証明書 | 会社の機関設計、株式譲渡制限、相続人等への売渡請求に関する定め |
| 株主名簿・株券・過去の株式移動の資料 | 故人の保有株式数、種類、株券発行の有無、名簿と実態のずれ |
| 遺言書・戸籍・相続関係の資料 | 誰が相続人か、株式の取得者が遺言で指定されているか |
| 直近の決算書・申告書 | 相続税評価の相談に必要な会社の財務情報 |
| 借入・保証・担保の契約書 | 故人個人の債務や保証があるか |
株主名簿には株主の氏名・住所や保有株式数などを記載します(会社法第121条)。名簿に故人の名前があるからといって、相続人が会社経営上の全権限を直ちに行使できるという意味ではありません。
2. 相続人が複数いると、議決権はどうなる?
遺言や遺産分割で株式の帰属が決まる前は、共同相続人の間で権利をどう行使するかが問題になります。会社法第106条は、株式が複数人の共有に属するときは、原則として権利を行使する人を一人定め、会社へ通知する仕組みを置いています。会社が個別の議決権行使に同意しただけで適法になるとは限りません。最高裁平成27年2月19日判決は、指定・通知を欠く場合、会社が同意しても、共有に関する民法の規律に従わない権利行使は適法にならないと判断しました。
「相続人が三人だから、故人の議決権を各自が三分の一ずつ自由に使える」とは考えないでください。株主総会の日程が迫る場合は、共同相続人と会社の双方で、権利行使者の指定・通知と議決権数を早めに確認します。
たとえば父が100株を持ち、子が二人いる場合、父の死亡だけで「長男50株、長女50株」と株主名簿を書き換えてよいとは限りません。遺言の有無と遺産分割の内容を先に確認し、経営を担う人へ株式を集める必要があるか、他の遺産との配分をどうするか話し合います。合意が難しいときは、議決権の問題と遺産分割の問題を分けて専門家に相談してください。
3. 非上場株式の名義変更は、どこで進める?
3-1. 株式の取得者を確定し、発行会社へ資料を出す
遺言や遺産分割協議などで株式の取得者が決まったら、発行会社へ必要書類と株主名簿の手続きを確認します。会社法第133条は、株式を取得した人による株主名簿の記載・記録の請求を定めています。一般に、死亡の事実と相続関係を示す戸籍類、遺言書または遺産分割協議書、取得者の本人確認資料などが検討対象です。ただし、会社の定款、株券発行の有無、遺言の方式で必要資料は変わります。会社の指定を確認する前に、書類を一式決めつけないことが大切です。
株式の相続そのものは、相続人が会社の株式を新たに買う「株式譲渡」とは異なります。譲渡制限株式でも、相続による取得に通常の譲渡承認手続きをそのまま当てはめるものではありません。一方、会社法第174条には、定款に定めがある場合、会社が相続人等に対して譲渡制限株式の売渡しを請求できる制度があります。同法第176条・第177条によると、会社からの売渡請求は会社が相続を知った日から1年以内、価格の協議がまとまらない場合の裁判所への価格決定申立ては請求日から20日以内です。定款と会社からの通知を確認し、売渡請求を受けたら早めに個別相談してください。
3-2. 株主変更と役員変更の登記を混同しない
株主名簿は会社が管理する資料です。株主が相続で変わっただけなら、株主の氏名そのものを法務局の商業登記簿へ登記する手続きとは異なります。ただし、亡くなった方が取締役や代表取締役でもあった場合は、会社の機関設計に応じた新たな役員の選任や変更登記を別に検討します。後継者がいない場合の事業承継の選択肢は、経営者選びと株式の所有を分けて説明しています。
4. 株の値段と相続税は、どう確認する?
非上場株式には日々表示される市場価格がありません。相続税上の「取引相場のない株式」の評価は、取得者が同族株主に当たるか、会社の規模や財務内容はどうかなどで方法が変わります。国税庁の取引相場のない株式の評価は、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などを整理しています。
資本金の額や一株の額面だけで、相続税上の株価は決まりません。直近の決算書だけでなく、会社の資産・負債、株主構成などを税理士へ示し、相続税評価と納税資金を確認しましょう。相続税の評価額と、将来売却できる価格も同じとは限りません。
相続税の申告が必要な場合、原則として死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。遺産分割が終わらない場合も、期限を放置できません。国税庁の相続税の申告と納税と、未分割の場合の申告を確認し、申告要否を早めに相談してください。
後継者が一定の要件を満たす場合には、法人版事業承継税制による納税猶予・免除を検討できます。ただし、株式を相続すれば自動で税金がゼロになる制度ではありません。認定、申告、担保、継続報告などの条件があります。中小企業庁の現行案内では、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、特例措置の対象となる承継は2027年12月31日までとされています(2026年10月31日確認)。相続が起きた時点の要件と手続きを、税理士と都道府県の担当窓口に確認してください。
5. 会社と家族が止まらないための三つの行動
5-1. 会社へ株式と定款の確認を依頼する
会社へは「故人の保有株式数・種類」「株主名簿の記載」「株券発行の有無」「定款上の相続人への売渡請求の定め」「直近の株主総会予定」を確認します。名簿と手元の株券や通知が食い違えば、その差をメモに残します。
5-2. 相続人と財産全体を整理する
遺言の有無、戸籍、株式以外の遺産、個人の債務と保証を確認します。経営する人に株式を集める案を考える場合、他の相続人へ渡す財産や金銭の準備も必要です。意見が割れるときは、拙速な株主名簿の書換えを避け、合意形成を支える専門家を交えて進めます。
5-3. 会社法の手続きと税務を別々に相談する
会社の役員変更・商業登記や相続書類は司法書士、株価評価と相続税申告・事業承継税制は税理士、相続人間の紛争や売渡請求をめぐる争いは弁護士が主な相談先です。相談時は、上の資料表のうち手元にあるものだけでも持参してください。会社の決算書など機密資料は、送付先と共有範囲を確認して扱いましょう。
6. まとめ:株式の承継、会社の運営、税務を順に整理する
非上場株式を相続したら、会社の株主名簿と定款から保有株式を確かめ、遺言・遺産分割で取得者を整理し、会社と名簿の手続きを進めます。共同相続中の議決権、役員変更、相続税の評価・申告は別の論点です。期限がある税務や会社の総会を見落とさないよう、会社と専門家へ早めに連絡しましょう。
会社の登記や相続関係の書類整理について相談したい方は、あいりん司法書士事務所の無料相談案内をご確認ください。株価の算定や相続税の申告は税理士による確認が必要です。
7. 非上場株式の相続Q&A
7-1. 非上場株式は証券会社で名義変更しますか?
発行会社が管理する株主名簿の手続きが中心です。株券発行の有無や会社の管理方法によって必要資料が異なるため、まず発行会社へ確認してください。ほかの財産の名義変更は、不動産・預貯金・株式・投資信託の名義変更で扱っています。
7-2. 譲渡制限株式を相続する際も、会社の承認が必要ですか?
相続による取得は通常の株式譲渡と異なり、譲渡承認をそのまま要するものではありません。ただし定款に定めがあれば、会社法第174条の売渡請求が問題になる場合があります。会社が相続を知った日から1年以内などの期限があるため、定款と会社からの連絡を早めに確認してください。
7-3. 相続人が複数なら、各自が議決権を使えますか?
共同相続中の株式については、会社法第106条の共有株式の権利行使者を定める手続きが問題になります。各自が持分相当を自由に行使できるわけではなく、会社の同意だけでも足りない場合があります。相続人の間で権利行使の決め方を確認しましょう。
7-4. 株主になれば、亡くなった社長の後任になりますか?
なりません。株式の相続と取締役・代表取締役の選任は別です。会社の定款と機関設計を確認し、必要な決議と役員変更登記を検討します。
7-5. 赤字の会社なら、株の相続税評価はゼロですか?
赤字という事実だけでは決まりません。国税庁の評価方法は会社の規模、資産・負債、株主の立場などで変わります。決算書と株主構成を税理士へ示し、評価と申告の要否を確認してください。
7-6. 事業承継税制を使えば、相続税は払わなくてよいですか?
自動で免除される制度ではありません。後継者、会社、株式、認定、申告などの要件を満たす場合に納税猶予を受け、一定の事由で免除される仕組みです。申告期限を意識して税理士と都道府県の担当窓口へ早めに相談してください。

