【独自解説】相続では現金と不動産どっちが得?受け取った後の負担と分け方

相続で現金と実家のどちらを受け取るか兄妹が話し合うイメージ

親の遺産に実家と預貯金があるとき、「家を残したい人」と「現金で受け取りたい人」の希望が食い違うことがあります。現金と不動産のどちらが得かは、相続税の評価額だけでは決まりません。使い道、維持費、売りやすさ、ほかの相続人との調整まで含めて考える必要があります。

1. 想定例:実家を残したい兄と、現金を希望する妹

父が亡くなり、相続人は長男と妹の2人。遺産には郊外の一戸建てと預貯金があります。長男は「生まれ育った家を残したい」と考えています。一方、妹は自分の住まいの修繕や今後の生活に備え、できるだけ現金で受け取りたいと思っています。

長男は家を受け取ればよいのか、妹は現金を受け取れば公平なのか。家の評価額をどの金額で見るのか、長男が妹へお金を支払う必要があるのかも分かりません。相続で家と現金のどちらが得かは、このように「どの財産をもらうか」だけでなく、「受け取った後に無理なく保有できるか」「家族が納得できる分け方か」で答えが変わります。

先に結論をいえば、現金か不動産かに一律の優劣はありません。長男が住み続ける意思と維持費を負担できる資力を持ち、妹へ渡す預貯金や代償金も整えられるなら、不動産を長男、現金を妹とする案は選択肢になります。反対に、誰も住まず管理も難しい家なら、売却して現金を分ける方が現実的な場合があります。ただし、長男が家を取得する案にも複数の形があります。家と預貯金を組み合わせ、妹が必要とする金額を先に確保できれば、代償金を払わずに済む可能性があります。預貯金だけでは妹の取得分に届かない場合は、長男が自分の資金から代償金を出せるかを検討します。家の評価や支払時期に合意できなければ、売却して費用を差し引いた残額を分ける換価分割も比較対象です。

この記事を要約すると

  • 現金は使いやすく、不動産は住む・貸す・残す利用価値がある一方、維持費と管理負担もあります。
  • 相続税の評価額、遺産分割のための評価、売却見込額を分けて考えます。
  • 家を残す場合は預貯金との組み合わせや代償分割、売る場合は換価分割を検討します。

この記事をおすすめしたい方

  • 相続で現金と不動産のどちらを受け取るべきか迷っている方
  • 実家を残したい相続人と、現金を希望する相続人がいる方
  • 遺産に実家と預貯金があり、きょうだいで分け方を話し合っている方

2. 現金と不動産は「受け取った後」に差が出る

2-1. 現金は使いやすいが、分け方には合意が要る

現金や預貯金は、金額が明確で、生活費や住宅費など必要な用途にすぐ充てられます。受け取った後に建物を管理したり、修繕業者を手配したりする必要もありません。妹のように、近い将来にまとまった支出を予定している人にとっては、現金の流動性が大きな利点です。

ただし、預貯金を誰がどれだけ受け取るかは遺産分割の話し合いで決めます。家を長男が取得し、預貯金を妹が取得する案が、財産全体や相続人それぞれの事情を踏まえて合意できるかを確認します。現金の額だけを見て単純に公平と決めるのではなく、他の財産や生前贈与、債務なども確認しましょう。

2-2. 不動産は利用価値と維持負担の両方を持つ

実家に住む予定がある人、賃貸に出して収入を得る見込みがある人には、不動産を保有する意味があります。しかし、空き家のまま所有すると、固定資産税、火災保険、草木の管理、設備の修繕などが続きます。遠方に住んでいて様子を見に行けない、建物が古く修繕費を賄えない、売却しようにも買い手が見つかりにくい、といった事情があれば、評価額が高くても負担が先に立つことがあります。

想定例の長男は、「家を残したい」という気持ちだけでなく、今後そこに住むのか、誰が管理するのか、毎年の税金や修繕費を払えるのかを確認します。妹も、家を残す希望を尊重しながら、現金の額だけでなく、長男が引き受ける費用や妹自身が必要とする生活資金を一緒に整理します。

不動産を売る前提で考える場合も、税務上の評価額と実際の売却見込額は同じとは限りません。土地の査定額や売却前に確認したい点は、相続した土地の査定額に差が出たときの確認事項で詳しく解説しています。

3. 相続税の評価額だけで「どちらが得」と決めない

相続税の計算では、現金は額面を基礎に評価されます。預貯金は原則として相続開始時の預入残高と既経過利子(源泉徴収税額相当額を控除後)を基に評価されます。詳細は国税庁の預貯金の評価方法を確認してください。不動産は土地と建物で評価方法が異なり、土地は原則として路線価方式または倍率方式、家屋は固定資産税評価額を基に評価します。賃貸状況や居住用の特例などによって評価が調整されることもあります。詳しくは国税庁「土地家屋の評価」を確認してください。

この評価は相続税を計算するためのものです。遺産分割の話し合いで不動産をいくらとして扱うかは、相続人の合意や個別の事情を踏まえて検討します。固定資産税評価額や相続税評価額をそのまま使うのか、複数の査定を取るのかなど、まず評価の目的と基準日をそろえることが大切です。国税庁の評価額が、そのまま売却できる価格や、家族間の分割で唯一使うべき価格を意味するわけではありません。

また、「不動産の方が相続税評価額を抑えられることがあるから得」と単純化することもできません。相続税が発生するかは、財産全体、債務、法定相続人の数などで変わります。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算しますが、遺産の分け方だけで税額を判断することはできません。申告要否や税額の確認は、国税庁「相続税がかかる場合」を参照し、必要に応じて税理士へ相談してください。

長男と妹も、家の査定額、税務上の評価、売却時にかかる費用を同じものとして比較しないようにします。評価の前提が違うまま「現金の方が得」「家をもらう方が得」と結論づけると、後で不公平感が残るおそれがあります。

4. 家を残すなら代償分割、売るなら換価分割も検討

民法906条は、遺産分割について、財産の種類や性質、相続人の年齢・職業・心身の状態・生活状況など一切の事情を考慮する基準を定めています。長男の居住希望と、妹の現金需要をどう両立させるかも、家族の事情に沿って話し合う論点です。分け方には、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割などがあります。

  • 現物分割:家は長男、預貯金は妹というように、財産ごとに取得者を決めます。分かりやすい一方、財産の価値に差があると調整が必要です。
  • 代償分割:長男が家を取得し、その代わりに妹へ金銭を支払います。長男に支払える資金があるか、家の評価や金額に双方が合意できるかがポイントです。
  • 換価分割:家を売却し、諸費用等を考慮した後の現金を分けます。誰も住まない場合に検討できますが、売却できるまでの時間、費用、税金などを確認します。
  • 共有:家を共有名義にする方法もありますが、将来の売却や修繕の決定、次世代への承継で調整が難しくなる可能性があります。選ぶ前に、利用や処分のルールを具体的に話し合いましょう。

家を売却して現金で分ける換価分割の手順や注意点は、換価分割の進め方とトラブル例も参考になります。

遺言書がある場合は、その内容を確認します。遺産を相続人の協議で分ける場合は、共同相続人全員の合意が必要です(民法907条)。代償金の金額は法定相続分を機械的に当てはめれば自動的に決まるものではありません。合意内容を遺産分割協議書に明記し、税務上の扱いも含めて専門家へ確認します。協議で合意できない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てる方法があります。調停が成立しないときは、審判で分割方法が判断されます。分割方法の概要は、裁判所の遺産分割手続Q&Aも参考になります。

ここで区別したいのは、長男が相続財産の預貯金を妹へ渡す「現物分割の組み合わせ」と、長男自身の財産から支払う「代償分割」です。どちらが適切かは、遺産全体の価値、双方の希望、資金の出どころを確認して決めます。家を長男、預貯金を妹とするだけで差が残る場合、どの評価を使って調整するかも全員で合意します。

想定例では、長男が家を取得する案を出す前に、家の評価方法、妹へ渡す現金の額、代償金の支払時期と原資を整理します。長男に支払い能力がなければ、家を売って分ける案や、預貯金を組み合わせる案に戻って比較します。最初に「家を残すか、売るか」だけを決めるのではなく、希望と実行可能性を順に確かめることが重要です。

5. 遺産分割の話し合い前に確認したい5項目

  1. 相続人と遺言書:遺言書の有無、相続人の範囲、遺言の内容を確認します。遺言がある場合でも、内容や法的な効力を確かめてから進めます。
  2. 財産と債務:預貯金、不動産、借入金、未払費用などを一覧にし、誰かが把握していない財産がないか確認します。
  3. 不動産の使い道:誰が住むのか、賃貸できるか、売るのかを家族で話します。空き家の管理者も決めます。
  4. 費用と資金力:固定資産税、修繕費、保険料、売却費用、代償金など、取得後または分割時に必要な資金を見積もります。
  5. 評価の前提:相続税申告用、分割協議用、売却用のどの価格を比べているのかを明確にし、必要なら税理士や不動産の専門家に確認します。

この項目を紙に書き出すと、長男と妹の希望を「家を残したい」「現金が必要」という言葉だけでぶつけずに済みます。双方の希望、金額の根拠、次に調べることを共有してから話し合いましょう。相続人だけで整理するのが難しい場合は、司法書士や弁護士へ遺産分割の進め方を、税理士へ相続税の申告・税額を相談できます。争いが生じている場合は弁護士への相談も検討してください。

まとめ

相続で現金と不動産のどちらが得かは、財産の評価額だけでは決まりません。現金は使いやすく、不動産は住む・貸す・残す価値がありますが、維持費や管理、売却のしやすさも伴います。

想定例の長男と妹のように希望が異なるときは、相続人それぞれの生活状況、家の利用予定、維持費、評価方法、代償金を払えるかを確認します。家を長男が取得して妹へ現金を渡す方法も、家を売却して現金を分ける方法もあります。結論を急がず、選択肢と金額の前提をそろえたうえで、家族が実行できる分け方を話し合いましょう。

相続不動産の名義変更や売却について、遺産分割とあわせて整理したい方は、相続不動産の名義変更と売却の相談案内をご覧ください。

よくある質問

相続では現金と不動産のどちらをもらう方が得ですか?

一律にどちらが得とはいえません。現金は生活費などに使いやすく、不動産は住居や賃貸収入などの利用価値があります。管理費や税金、売却のしやすさ、相続税の申告要否も含めて判断します。

相続税の評価額が低い不動産をもらう方が有利ですか?

相続税評価額だけで決めることはできません。税務上の評価と、遺産分割で相続人が合意する評価、実際の売却価格は目的が異なります。財産全体や税の特例も関わるため、必要に応じて税理士へ確認してください。

不動産を相続する代わりに、きょうだいへ現金を払えますか?

相続人全員の合意などの条件を満たせば、家を取得する相続人が他の相続人へ代償金を支払う代償分割を検討できます。家の評価、金額、支払時期、資金の準備方法を話し合い、協議書への記載や税務上の扱いを専門家に確認しましょう。

相続した家に誰も住まない場合はどうすればよいですか?

維持管理を続けるか、賃貸するか、売却するかを比較します。固定資産税、修繕費、管理の手間、売却にかかる期間や費用を確認してから決めると、受け取った後の負担を見通しやすくなります。

相続人の一人が家を残したいと言えば、売らずに済みますか?

希望だけで自動的に決まるわけではありません。遺言書の有無を確認し、遺言がない場合は相続人間で分け方を協議します。合意できないときは、家庭裁判所の遺産分割調停を検討できます。

遺産分割の話し合いがまとまらない場合、誰に相談すればよいですか?

遺産分割や相続登記の進め方は司法書士、相続人間の争い・代理交渉は弁護士、相続税の申告や税額は税理士に相談できます。相談時は、財産一覧、戸籍、遺言書、固定資産税の資料、査定書などを用意すると状況を伝えやすくなります。

司法書士・行政書士 梅澤徹

この記事の監修者

司法書士・行政書士 梅澤 徹(うめざわ とおる)

あいりん司法書士事務所 代表。神奈川県司法書士会(第2259号)・神奈川県行政書士会(第15090451号)所属。相続手続き3,000件超をサポート。プロフィールを見る 無料相談のご案内

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