父の死後「弟と連絡がつかない」…遺産分割を進められない50代長女。住所調査から不在者財産管理人まで、何を確認する?【司法書士が解説】

相続人と連絡が取れず遺産分割が進まない場合の相談イメージ

※本記事の人物・家族関係・金額は、制度を説明するために設定した想定事例です。実在の相談内容をそのまま示すものではありません。
「父の預金を解約したいのに、弟の住所も電話番号も分からない」。父の死後、遺産を整理しようとした長女Aさんは、十数年前から疎遠だった弟Bさんと連絡が取れず困っていました。Bさんを除いた2人だけで遺産分割協議書を作ってよいのでしょうか。実家の相続登記や固定資産税は、いつまで待てばよいのでしょうか。
この記事では、相続人と連絡が取れないために遺産分割が止まった想定事例をもとに、まず確認する事実、取り得る選択肢、家庭裁判所の手続を整理します。大切なのは、返事が遅いだけなのか、所在が分からないのかを混同せず、記録を残しながら順番に進めることです。
この記事を要約すると
遺産分割は、原則として相続人全員が参加して進めるため、連絡の取れない相続人を外して決めることはできません。
最初に戸籍・住所につながる資料・過去の連絡記録を整理し、「連絡先が古い」のか「所在が分からない」のかを切り分けます。
所在不明が続く場合は、不在者財産管理人(行方の分からない人の財産を守るために家庭裁判所が選ぶ管理人)の選任と、遺産分割に必要な許可を検討することがあります。
この記事をおすすめしたい方
兄弟姉妹など、相続人の一人と長く連絡が取れていない方
相続登記や預貯金の解約を進めたいのに、協議書に署名してもらえず困っている方
「相続人 連絡が取れない」と検索し、何から調べるべきか知りたい方
1. 相談事例|父の相続で、弟の所在が分からない
横浜市に住む54歳のAさんは、父を亡くしました。母はすでに他界しており、相続人はAさん、妹Cさん、弟Bさんの3人です。父は遺言書を残していませんでした。
遺産は、父名義の自宅と預貯金1,200万円です。自宅には誰も住んでいませんが、固定資産税の納税通知書は届き続け、空き家の管理も必要になっています。AさんとCさんは、実家を売却して預貯金と合わせて分ける方向で話しています。
ところが、Bさんとは父の介護をめぐって関係が悪くなり、12年前から連絡が途絶えていました。Aさんが知っている携帯電話はつながらず、以前の住所へ送った手紙も宛先不明で戻ってきました。親族に聞いても、Bさんの勤務先や現在の住所を知る人はいません。
この段階で、Aさんが抱きやすい疑問は次の3つです。
AさんとCさんだけで遺産分割協議をして、実家を売却できるのか。
Bさんの分を預かっておけば、相続登記や預金の解約を先に進められるのか。
どの程度探しても見つからないとき、誰がBさんの代わりに手続に参加するのか。
「返事がない」ことと「所在不明」であることは同じではありません。まずは、相続人が確定しているか、連絡先の調査をどこまで行ったかを、資料と記録で見える化する必要があります。
2. この事例で何が止まるのか|一人を外した協議書では進めにくい
遺産分割協議では、相続人全員の参加と合意が基本です。Bさんを抜いてAさんとCさんだけで作成した協議書では、実家の相続登記や預貯金の解約を進められないことがあります。遺産分割の基本は、遺産分割協議とは?相続人全員の合意・必要書類・相続登記まで解説でも詳しく説明しています。
いま起きていること
放置した場合に起こりやすいこと
最初に確認する資料・記録
Bさんの連絡先が古い
連絡を取る方法がないまま、協議が始められない
戸籍、過去の住所、返送された郵便物、電話・メールの記録
実家が空き家になっている
税金、保険、修繕、管理責任の負担が続く
登記事項証明書、固定資産税の通知書、保険・管理の支払記録
AさんとCさんだけで結論を急いでいる
後から手続のやり直しや対立につながる
財産目録、査定書、話合いのメモ
自宅の破損を防ぐ、火災保険の状況を確認する、固定資産税の納付方法を整理するなど、遺産を守るために必要な対応は早めに検討します。ただし、実家を売却する、誰が取得するかを決める、といった最終的な処分は、Bさんの権利を無視して進めることはできません。
3. まずすること|「調査」と「連絡」の記録を残す
3-1. 相続人の確定と、古い情報の整理
最初に、被相続人の出生から死亡までの戸籍などを確認して、相続人が誰かを確定します。Aさんが「弟はBさんだけ」と思っていても、前婚の子や認知した子など、戸籍を確認して初めて分かる相続人がいる場合があります。
その上で、Bさんについて分かっている情報を時系列に並べます。最後に会った時期、最後に届いた年賀状の住所、電話番号、メールアドレス、勤務先の心当たり、親族から聞いた情報などです。戸籍の附票など、住所の確認につながる資料を取得できるかは、請求する人と利用目的、自治体の取扱いによって異なります。自己判断で第三者の情報を広く集めるのではなく、相続手続に必要な範囲を専門家や窓口に確認しましょう。
3-2. 連絡は、一度で終わらせない
電話がつながらなかっただけで、すぐに「行方不明」と決めるのは早計です。判明している住所があれば、相続が始まったこと、連絡が必要な理由、返答先、期限を分かりやすく書いた手紙を送ることを検討します。普通郵便だけでなく、送付した日・宛先・返送の有無を残せる方法を選ぶ場面もあります。
住所が分かり、郵便も届いているのにBさんが返答しない場合は、所在不明とは限りません。この場合は、話合いの方法を工夫する、書面で案を示す、遺産分割調停(家庭裁判所で行う話合いの手続)を検討するなど、別の進め方になります。
4. 取り得る選択肢|状況別に3つを比べる
4-1. 選択肢1|連絡先が判明し、当事者間で協議する
調査の結果Bさんと連絡がつき、相続に参加する意思が確認できれば、通常の遺産分割協議へ進みます。全員が同じ場所に集まる必要はありません。内容を共有し、合意した協議書に署名押印し、必要な印鑑証明書などをそろえる方法もあります。
4-2. 選択肢2|住所は分かるが合意できないため、調停を検討する
Bさんの住所は分かっているものの、返答がない、または売却に反対して協議がまとまらない場合、AさんやCさんだけで決めることはできません。民法907条2項は、共同相続人間で協議が調わないとき、または協議ができないとき、家庭裁判所に遺産分割を請求できると定めています。e-Gov法令検索の民法と、裁判所の相続・遺産分割の案内を確認しましょう。
対立が強い、使途不明金や生前贈与の主張があるなど、紛争性が高い場合は、司法書士だけでなく弁護士への相談が必要になることがあります。
4-3. 選択肢3|所在不明が続くため、不在者財産管理人を検討する
Bさんの住所や居所が分からず、容易に戻る見込みもない場合は、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることを検討します。民法25条は、不在者が財産の管理人を置いていないとき、利害関係人などの請求により、家庭裁判所が財産の管理について必要な処分を命じられると定めています。
裁判所の不在者財産管理人選任の案内によれば、選任された管理人は、財産の管理・保存のほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって遺産分割や不動産の売却を行うことがあります。
ただし、この制度は「連絡が面倒な相続人を外す」ためのものではありません。管理人はBさんの利益を守る立場にあり、AさんやCさんに都合のよい内容で協議をまとめる役割ではありません。申立ての資料や必要な費用、管理人の選任、権限外行為許可までを含め、時間と手続が必要になる可能性があります。
5. この事例なら、どの順番で進めるか
父の戸籍、遺言書の有無、財産資料を集め、相続人と遺産の全体像を確定する。
Bさんの過去の住所・連絡先を整理し、相続手続に必要な範囲で住所確認につながる資料を検討する。
判明した住所・連絡手段に対し、日時・内容・結果が残る形で連絡を試みる。
実家の固定資産税、保険、空き家管理など、売却以外の当面の管理事項を分けて整理する。
Bさんの所在や反応に応じて、全員での協議、遺産分割調停、不在者財産管理人の選任を選ぶ。
合意や審判の内容に応じて、相続登記・売却・預貯金の解約を実行する。
不動産がある相続では、相続登記の期限も別に意識する必要があります。遺産分割がすぐにまとまらない場合でも、どの登記をいつ申請するかは、法務省の相続登記申請義務化の案内を確認し、早めに検討しましょう。
6. まとめ|相続人を「探す」ことも、遺産分割の大事な工程
相続人と連絡が取れないとき、焦って残りの相続人だけで協議書を作ると、後で手続が止まったり、やり直しになったりするおそれがあります。最初にするべきことは、Bさんを責めることではなく、相続人の確定、連絡先の確認、連絡を試みた記録の整理です。
住所が分かるのに合意できない場合と、住所自体が分からない場合では、選ぶべき手続が変わります。後者では不在者財産管理人を検討することがありますが、これはBさんの権利を守りながら手続を進めるための制度です。戸籍収集、相続関係の整理、遺産分割協議書、相続登記は司法書士へ、対立が強い場合は弁護士へ相談すると、役割を分けて進めやすくなります。
7. よくある質問
Q1. 相続人が一人だけ連絡してくれない場合、他の相続人だけで遺産分割できますか?
原則としてできません。遺産分割は相続人全員が参加して進める必要があります。まずは住所・連絡方法を確認し、返答がない事情に応じて協議、調停、不在者の手続を検討します。
Q2. 何年も会っていない兄弟の住所は、どう調べればよいですか?
まず戸籍をもとに相続人を確定し、相続手続に必要な範囲で利用できる住所確認資料があるか、役所の窓口や司法書士に確認します。請求できる書類や条件は、請求者と目的によって異なるため、目的を明確にして進めることが大切です。
Q3. 手紙が戻ってこなければ、相続人が同意したと考えてよいですか?
いいえ。郵便が届いたことと、遺産分割に合意したことは別です。署名押印など、合意を確認できる形が必要です。返答がなければ、残りの相続人だけで結論を出さず、次の手続を検討してください。
Q4. 不在者財産管理人は、誰でもなれますか?
家庭裁判所が個別の事情を見て選任します。申立人が候補者を挙げても、その人が必ず選ばれるわけではありません。管理人は不在者の利益を守る立場であり、遺産分割などの権限外行為には家庭裁判所の許可が必要になります。
Q5. 行方不明の相続人がいる間、実家の固定資産税は誰が払いますか?
納税通知書の宛先や相続の状況により対応は異なります。実家を守るための当面の納付や管理を誰が行ったかは、後の精算にも関わるため、支払記録を残しましょう。最終的な負担の整理は、遺産分割の内容や個別事情を踏まえて検討します。
この記事の監修者
司法書士 梅澤 徹

司法書士・行政書士 梅澤徹

この記事の監修者

司法書士・行政書士 梅澤 徹(うめざわ とおる)

あいりん司法書士事務所 代表。神奈川県司法書士会(第2259号)・神奈川県行政書士会(第15090451号)所属。相続手続き3,000件超をサポート。プロフィールを見る 無料相談のご案内

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