※本記事の人物・家族関係・金額は、制度を説明するために設定した想定事例です。実在の相談内容をそのまま示すものではありません。
「実家は売りたい。でも、妹が住み続けたいと言っている」。父の死後、実家を兄妹3人の共有名義で相続した長女Aさんは、弟と妹の意見が正反対で困っていました。兄妹のうち一人だけが反対しても、実家全体を売ることはできるのでしょうか。また、住み続ける妹を残したまま、他の兄妹が公平に相続する方法はあるのでしょうか。
この記事では、実家相続で起こりやすい共有名義の問題を、想定事例に沿って整理します。結論を急ぐ前に、誰が住むのか、誰が費用を負担しているのか、売却代金をどう分けるのかを分けて考えることが大切です。
- 相続人全員で実家を共有する状態では、売却や大きな処分を一人で決めることはできません。
- 実家を一人が取得して他の相続人へ金銭を支払う「代償分割」は、住み続けたい人がいる場合の選択肢になります。
- 相続登記の期限と遺産分割の期限は別に確認し、話合いが長引く場合も登記を放置しないことが重要です。
この記事をおすすめしたい方
- 親の実家を兄弟姉妹で相続し、売却か居住継続かで意見が割れている方
- 相続した不動産を共有名義のままにしてよいか迷っている方
- 実家 相続、共有名義というキーワードで記事をお探しの方
目次
1. 相談事例|実家を3人の共有名義にした後、話が止まった
横浜市に住む53歳のAさんは、父を亡くしました。母はすでに他界しており、相続人はAさん、弟Bさん、妹Cさんの3人です。父は遺言書を残していませんでした。
遺産は、父が一人で住んでいた自宅と預貯金でした。自宅の概算評価額は2,400万円、預貯金は600万円。住宅ローンはありません。相続開始後、兄妹は「ひとまず法定相続分で登記しておこう」と考え、実家を各3分の1の共有名義にする相続登記を済ませました。
ところが、その後に意見がまとまりません。
- Aさんは遠方に住んでおり、空き家にして固定資産税や管理費を払い続けることに不安がある。
- Bさんは子どもの進学費用もあり、「売却して3人で分けたい」と考えている。
- Cさんは離婚後に父と同居しており、「今後も実家に住みたい。すぐに売るのは困る」と話している。
実家を共有名義にしたこと自体が直ちに失敗というわけではありませんが、売る・住む・費用を負担するという別々の問題を、共有だけでは解決できません。
2. この事例で何が問題になるのか|「共有」と「公平」は同じではない
相続人が複数いるとき、遺産分割が終わる前の遺産は、相続人全員の共有に属するのが原則です。e-Gov法令検索の民法第898条は、この相続財産の共有を定めています。
今回のように法定相続分で相続登記をすると、登記簿にも3人それぞれの持分が記録されます。しかし、登記をしたからといって、実家を誰がどう使うか、売却代金をどう分けるかまで決まるわけではありません。
| いま起きていること | 放置した場合に起こりやすいこと | 最初に確認する資料 |
|---|---|---|
| Cさんが実家に住み続けている | 使用料や固定資産税の負担を巡って不満がたまる | 固定資産税の納税通知書、光熱費・修繕費の支払記録 |
| Bさんが売却を希望している | 価格や売却時期を決められず、空き家化・老朽化が進む | 登記事項証明書、査定書、境界・接道の資料 |
| Aさんが調整役になっている | 「誰が何を決めたか」が曖昧なまま、手続が止まる | 戸籍、遺言書の有無、財産一覧、過去の話合いメモ |
不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の協力が必要です。一方で、各共有者が自分の持分だけを第三者へ売ることは、法律上はあり得ます。ただし、居住用の実家の持分だけを買いたい人は多くなく、価格が下がったり、残った共有者との関係がさらに複雑になったりしやすい方法です。
また、Cさんが住んでいるからといって、Cさんが当然に実家全体を取得できるわけでもありません。反対に、Bさんが売却を望んでいるからといって、Cさんを一方的に退去させられるわけでもありません。共有名義の実家では、所有の問題、居住の問題、金銭の問題を順番に分けて話し合う必要があります。
3. 実家をどう分けるか|3つの選択肢を比べる
3-1. 選択肢1|実家を売却し、代金を分ける
最も分かりやすいのは、実家を売却して現金化し、遺産分割の内容に沿って分ける方法です。3人とも実家を使う予定がなく、売却価格や時期に納得できるなら、共有を解消しやすい選択肢です。
ただし、Cさんが居住を続けたい今回のような事例では、先に住替え先や引越時期、残置物の整理、売却までの固定資産税・修繕費を決める必要があります。「売ることだけ」を先に決めると、実際の引渡し直前に再び対立することがあります。
3-2. 選択肢2|Cさんが実家を取得し、他の兄妹へ金銭を支払う(代償分割)
住み続けたいCさんが実家を取得し、AさんとBさんへ相続分に見合う金銭を支払う方法を、一般に代償分割といいます。今回の概算では、遺産総額は3,000万円です。3人が同じ相続分なら、1人あたりの目安は1,000万円になります。
たとえばCさんが2,400万円の実家を取得し、AさんとBさんが600万円の預貯金を受け取る設計では、それだけでは均衡しません。CさんがAさん・Bさんへ合計1,400万円を支払う、または支払方法を別途決める必要が出てきます。実際には、不動産の評価方法、預貯金以外の財産、過去の贈与、住宅ローンの利用可否などで金額が変わります。
代償分割は「住みたい人の希望」と「現金を受け取りたい人の公平」を両立し得ますが、代償金を本当に用意できるかが最大の確認点です。
分割払いを考える場合でも、支払時期、担保、固定資産税や修繕費を誰が負担するかを曖昧にしないことが重要です。資金計画や税務は、早い段階で税理士・金融機関とも確認しましょう。
3-3. 選択肢3|共有のまま住み続ける
「今は売らず、Cさんが住み続ける」という結論もあり得ます。ただし、これを選ぶなら、共有を続けるための約束を書面にすることが欠かせません。
- Cさんは無償で住むのか、他の共有者に使用料を支払うのか
- 固定資産税、火災保険、修繕費、草木の手入れを誰が負担するのか
- 大きな修繕や建替えが必要になったら、誰が判断するのか
- Cさんが退去・死亡・施設入居となったとき、売却を再協議するのか
共有を続けることは、結論を先送りすることと同じではありません。将来の出口まで合意できないなら、時間がたつほど相続人が増え、関係者の数も増えるおそれがあります。
4. 話合いがまとまらない場合|共有物分割を急ぐ前に整理したいこと
民法第256条は、各共有者が原則としていつでも共有物の分割を請求できると定めています。また、話合いがまとまらず裁判所での分割が必要になると、現物で分ける、競売を含む換価をする、特定の共有者に取得させて他の共有者へ金銭を支払わせるなど、事情に応じた形が検討されます。詳細な争いになりそうな場合は、早い段階で弁護士へ相談することが必要です。
ただし、家族間で話し合える余地があるうちから、すぐに法的手段を選ぶのが常に最善とは限りません。今回なら、次の順で論点を見える化します。
- 不動産の現状と価格を確認する。査定は1社だけで決めず、根拠を共有する。
- Cさんの居住継続が、いつまで・どの条件なら可能かを確認する。
- AさんとBさんが必要とする現金の時期と額を確認する。
- 売却、代償分割、一定期間の共有継続の3案を、費用負担も含めて並べる。
- 合意した内容を遺産分割協議書などの書面にし、登記手続まで終える。
話合いの目的は、全員が同じ希望を持つことではありません。誰が何を優先するのかを数字と期限で言葉にし、実行できる案へ落とし込むことです。
5. 相続登記は別に確認する|共有の登記をした後も手続は残る
相続人が不動産を相続したことを知った日から3年以内の相続登記申請が義務付けられています。法務省の相続登記の申請義務化に関する案内では、遺産分割が成立した場合には、その内容に基づく登記にも期限があることが説明されています。
今回の兄妹は法定相続分で登記を済ませていますが、その後に「Cさんが実家を単独で取得する」と決めたなら、遺産分割の内容に合わせた登記を検討する必要があります。相続人申告登記は、相続登記の基本的な義務を簡易に履行するための制度ですが、売却や遺産分割後の権利関係をそのまま実現するものではありません。法務省の相続人申告登記の案内も確認しましょう。
また、相続人が確定していない、戸籍が複雑で金融機関ごとの提出書類が負担になるという場合には、法務局の法定相続情報証明制度を利用できることがあります。相続関係を一覧図にしておくと、話合いの土台を共有しやすくなります。
6. まとめ|実家の共有相続は、出口を決めてから続ける
実家を兄弟姉妹で共有することは、相続直後には公平に見えるかもしれません。しかし、売却、居住、修繕、固定資産税、次の相続が重なると、判断する人が増え、合意は難しくなります。
今回のように一人が住み続けたい場合は、売却だけを迫るのでも、共有のまま我慢するのでもなく、代償分割を含めた資金計画と、共有を続ける場合の出口を比べることが大切です。登記・遺産分割協議書は司法書士へ、相続税や譲渡所得の見通しは税理士へ、対立が強い場合は弁護士へ、早めに相談すると進め方を整理しやすくなります。
7. よくある質問
7-1. 共有名義の実家を、兄弟の一人だけで売却できますか?
実家全体を売却するには、原則として共有者全員の協力が必要です。自分の持分だけを売却することはあり得ますが、買い手が限られ、価格や家族関係への影響も考える必要があります。
7-2. 実家に住んでいる兄弟を、他の共有者がすぐに退去させられますか?
共有者間の居住には、相続時の合意、同居の経緯、費用負担など複数の事情が関わります。一律に退去させられるとはいえません。まずは使用条件や将来の出口を話し合い、対立が深い場合は弁護士に相談してください。
7-3. 代償分割では、代償金を一括で払わなければなりませんか?
一括払いが多いものの、当事者間で合意すれば支払時期や方法を定めることは考えられます。ただし、支払能力が不確かな約束は後の紛争につながるため、金額、期限、担保の要否を具体的に決める必要があります。
7-4. 共有名義で登記した後でも、遺産分割はできますか?
事情により可能です。法定相続分での相続登記をした後に、誰が不動産を取得するかを遺産分割で決めることはあります。合意後は、その内容に合う登記が必要になります。
7-5. 話合いがまとまらない間、相続登記はどうすればよいですか?
相続登記には期限があります。遺産分割がまとまらない場合に利用できる相続人申告登記もありますが、売却や最終的な権利関係を実現する手続ではありません。期限と目的に合わせ、司法書士へ早めに相談しましょう。
この記事の監修者
司法書士 梅澤 徹

