この記事を要約すると
- 相続登記と売買登記の同時申請は原則として可能
- 相続登記前に売買契約を成立させることは原則NG
- 不動産相続と売買の同時進行は複雑でトラブルになりがち。複数の相続人がいる場合は司法書士・不動産会社を交えて相談しながら進めるべき
「相続した不動産は相続登記と同時に売買することができるのか?」不動産相続の際にこのような疑問を抱く人は多いです。遺産分割の方法や事情によって、いち早く不動産を現金化したい人もいるでしょう。
今回は、相続した不動産の相続登記と売買を同時にできるのか、その進め方、分割方法や登記方法について、トラブル事例も交えながら詳しく紹介します。
売買を視野に入れた不動産相続に必要な手続き
さまざまな事情から「相続した不動産を早く現金化しなくては」と焦る遺族は少なくありません。まず、売買を視野に入れた不動産相続に必要な手続きを整理しましょう。
遺産分割協議
遺産分割協議は、遺言書がある場合、かつ遺言書に異論を唱える人がいない相続ではスキップされることもあります。
しかし、特定の人物に不動産を相続させる場合や相続人全員で遺産を分けるために不動産を売却する場合には、遺産分割協議をするのが一般的です。
遺産分割協議自体には、期限がありません。ただし、相続税が発生する相続では、相続税の申告期限である死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告をしましょう。
また、遺産分割協議を経て相続割合が決まった不動産は、単独相続とする場合を除いて、以下の3パターンの分割方法で分けられることが多いです。
共有分割
共有分割とは、複数の相続人で一つの財産を共有する相続方法です。複数の相続人が自分の相続割合によって所有権を持つことになります。
共有分割は、一見、平和な解決方法にみえますが、相続成立後は不動産の売却や改築の際などに共有者である相続人全員の同意が求められます。相続した遺産は、次の世代にも受け継がれるため、将来的に相続関係が一層複雑化する可能性があります。
代償分割
代償分割は、不動産を相続したい相続人が、別の相続人に対し、その不動産以外の遺産や現金を代償として引き渡す相続方法です。
たとえば、相続人の間で「遺された家に住み続けたい」「すぐ現金化したい」など、意見が分かれた際に用いられる分割方法です。この場合、家に住み続けたい相続人に現金化できる財産や代償金額と同等の預貯金がないといったケースも珍しくありません。
「代償金の分割払い」を取り決めるなどが平和的な解決方法ですが、支払期間が長引くと別の相続が生じたり、協議自体がこじれたりして調停にもつれ込むこともあります。
換価分割
換価分割は、不動産の一部、もしくは全てを現金化して遺産分割協議で決めた割合で分割する方法です。最も公平性が高く、相続が生じた不動産の相続登記と売買を同時進行したい場合にも選択されることが多い分割方法です。
ただし、不動産の価値は時期や情勢、建物・土地の状態などによっても変化します。家の売却金額が想定より低いケースもあり、相続人同士がもめるケースも珍しくありません。不動産価格の査定はほかの相続人にもオープンにして、また複数の不動産会社に査定させるのがよいでしょう。
相続登記
不動産の登記は、正式名称を「所有権移転登記」といいます。不動産の所有権(名義)を公的に記すための手続きです。
相続登記とは、相続した不動産の所有権を元の所有者から相続人に変更し、登記する手続きを指します。以前は、不動産の相続登記は義務ではありませんでしたが、2024年(令和6年)4月1日より、義務化されました。
相続人は、不動産の相続人になったことを知った日から3年以内に、相続登記申請を済ませる必要があります。これを過ぎると、10万円の過料の対象となる恐れがあります。
この改正は、所有者不明の空き家、空き地を減らすための国の政策の一つです。そのため、2024年3月以前に相続された不動産も、相続登記が義務付けられました。
また、不動産の売買取引が行えるのは名義人のみです。相続した不動産の売却を急ぐ場合には、早めに相続登記を済ませておきましょう。
不動産の相続登記は、相続人本人による手続きも可能ですが、司法書士や弁護士による代理が一般的です。自分で行うとなると、相続登記に関する知識が求められるほか、複数の重要書類が必要だったり時間がかかったりするため、司法書士に一任するケースが増えています。
売買登記
不動産の売買が行われた際に所有権移転登記を申請することを、売買登記とも呼びます。相続・売買・生前贈与など、所有権移転の理由によって、登記手続きに必要な書類や申請者が異なります。
売買登記の場合は、所有権移転登記を売主と買主が共同申請するのが原則です。また、売買による所有権移転については、売買契約が成立した日から1ヵ月以内に申請するよう定められています。
複雑な手続きになるため、売買契約に関わった不動産会社や司法書士に依頼するのが一般的です。
不動産相続登記と売買は同時にできる?
不動産の相続登記と売却手続きを同時進行は、原則的には可能です。ただし、一連の流れをしっかり頭に入れておく必要があります。
まず、不動産の相続登記と売買登記を同日に申請することは可能です。しかし、相続による所有権移転登記を省略できないため、原則として所有権移転登記の申請書は「相続登記」と「売買登記」の2件分必要です。それぞれの登記に必要な書類もすべて求められます。
「不動産の元の名義人の死亡により、相続人に移った不動産所有権を売却により、新しい買主に移す」という流れは、法務局にとっては珍しいものではありません。しかし、登記に関する知識がない人が自分で行うには難しい手続きです。
不動産の相続登記と売買登記の同時申請の可能性がある場合は、登記のプロである司法書士に相談しながら進めるのがよいでしょう。
不動産の相続登記と売買登記の同時進行で起こりうるトラブル
不動産の相続登記と売買登記を同時に行う場合、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。代表的なトラブルとその対応策について紹介します。
相続登記前に新しい買主が見つかった
不動産の相続登記前に、買主が見つかるケースもあるでしょう。不動産の現金化を急ぐ場合にはよくあるケースです。
相続登記が完了していなくても、所有権は相続人にあるため、不動産の売買取引を進めることは違法ではありません。また、原則として相続登記と売買登記の同時申請も可能です。
しかし、遺産分割協議中など、相続人が決定していない状態で、不動産の売買契約を成立させることは所有権保有者(売主)が不明となるため不可能です。
手付から売買成立までが長引くと契約自体が破談になる危険性もあります。不動産会社などに相続した不動産の売却を依頼するなら、その前に相続人を確定させる必要があります。
売却予定の不動産に複数の相続人がいる
複数の相続人がいる不動産を売却をする場合、法定相続分の受け取りにより贈与税が発生するトラブルがあります。これは、相続登記の時に代表となる相続人の「単独登記」を選んだことによって起こりうるトラブルです。
単独登記とは、不動産の名義を特定の一人の相続人にすることです。単独登記のメリットとしては、不動産の名義人が一人のため、売却への意思決定・手続きがスムーズなことです。
ただし、デメリットとして不動産売却をし、得た現金を複数の相続人で法定相続分ずつ、もしくは遺産分割協議で決まった割合ずつ分ける場合、贈与税がかかる可能性を視野に入れなければなりません。
一方、複数の相続人が共有で不動産の名義人となる「共同登記」では、不動産売却で得た現金をそれぞれの相続割合に応じて分配する形となるため、贈与税は発生しません。
しかし、原則として不動産売買契約時には、すべての名義人が契約の当事者となる必要があります。
法定相続人の中に遠方に住んでいたり、ほかの相続人と時間が合わない仕事についていたり、など何らかの事情を抱える相続人がいるケースは、少なくありません。このような場合には、売買契約がスムーズに進まないこともあります。
この場合は、売却予定の相続した不動産は代表者が単独登記するケースが一般的です。しかし、贈与税が発生しないよう、遺産分割協議の時点で相続する不動産の売却方法と分割割合を定める必要があります。
その場合、遺産分割協議書に「換価分割予定の不動産である」旨を明記し、全相続人の合意が必要となり、印鑑証明書の添付も必要となります。
こうした一連の手続きは、相続や登記のプロである司法書士に一任するのがおすすめです。トラブルが起こりうる相続の場合は、まず無料相談を設けている司法書士に相談してみましょう。
出典:法務省 = 共同申請と単独申請のそれぞれのメリット・デメリットについて =
まとめ
相続した不動産の売買について、相続登記前から、不動産会社を交え手続きを進めることは可能です。しかし、原則として名義人が定まっていない不動産は売買できないため、遺産分割協議を済ませ、相続人を決めておくことが不可欠です。
遺産分割協議が終結し、売買の契約が成立したら、相続登記と売買登記を同時申請することもできます。ただし、相続登記の際、単独登記にするのか共有登記にするのか、売却金の分配についても遺産協議書に記す必要があります。
不動産の相続登記と売買登記を同時期に進めると、煩雑な手続きや話し合いが続くケースがほとんどです。不動産会社だけでなく、相続のプロである司法書士を交えて進めるのがおすすめです。
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この記事の監修者
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