親御さんが亡くなったあと、親御さんの債権者と名乗る消費者金融業者から督促状が郵送されてきたという事例があります。
借金の額が遺産額より多ければ、相続放棄を検討されると思います。
しかしながら、あなたは手続きの内容をご存じなく、仕事があるため平日官公庁に行き戸籍謄本等の収集もできません。このような場合、相続の専門家に手続きを依頼することをおすすめします。
本記事では、専門家に依頼すべきケース、依頼した場合のメリット・デメリットなどについて解説します。
目次
そもそも相続放棄とは?
相続放棄とは、被相続人の預貯金・不動産などのプラス財産と、借金・保証債務などのマイナス財産をいっさい相続しないことです。そのためには家庭裁判所に相続放棄を申請し、受理されなければなりません。
なぜなら受理によって、あなたは相続に関して当初から相続人ではなかったものとみなされるからです。(民法939条)
相続放棄の申請が受理されるには
相続放棄の申請が認められるためには、民法921条各号に規定する法定単純承認事由がないことが必要です。
- 相続財産の全部または一部を売却譲渡する(1号)
- 相続開始を知ってから3ヵ月が経過する(2号)
- 限定承認または相続放棄をしたあと相続財産を隠匿する・ひそかに使う・相続財産を財産目録に載せない(3号)
相続放棄の手続き
手続きのおおまかな流れは次のとおりです。
- 必要費用の用意
- 必要書類の用意
- 相続放棄申述書の提出
- 相続放棄照会書の提出
- 相続放棄申述受理通知書の受領
必要費用
- 申述書に貼り付ける収入印紙800円
- 家庭裁判所へ郵送するときの郵便切手(横浜家庭裁判所へ送付する際は、84円切手5枚と10円切手5枚が必要です。)
- 戸籍謄本1通の手数料450円
必要書類
相続放棄申述書
この申述書は、放棄を申し立てる際に家庭裁判所へ提出する書類です。家庭裁判所で発行されますし、こちらからダウンロードもできます。
申述人の戸籍謄本
主な記載事項は次のとおりです。氏名、生年月日、続柄、出生地と出生を届け出た人、婚姻した旨、離婚した旨などです。
被相続人の住民票除票もしくは戸籍の附票
本件での住民票除票とは、死亡が原因で住民登録が抹消された親御さんの住民票です。
本件における戸籍の附票とは、親御さんの戸籍ができてから除籍までの住所移転歴を記録したものです。この附票は、本籍地の官公署で保管されています。
相続放棄を申請するときは、次の書類が必要です。
- あなたの戸籍謄本
- 親御さんの住民票除票または戸籍の附票
- 親御さんの戸籍謄本
- 除籍謄本
- 改正原戸籍
除籍謄本とは、結婚、死亡などの理由で戸籍に誰も記載されていない状態の戸籍謄本です。改正原戸籍とは、戸籍簿が様式変更される前の戸籍です。親御さんの本籍地がなんども移動していた場合は複数の役所に請求する必要があるため、収集に1ヶ月以上かかることも珍しくないのです。できるだけ早く収集に取りかかりましょう。
相続放棄申述書の提出
戸籍謄本等を集めたら、次におこなうことは相続放棄申述書の作成です。親御さんが最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所に提出してください。
下記の項目は記入する事項の一部です。
- あなたの本籍、住所、氏名、生年月日、職業、親御さんとの関係
- 親御さんの本籍、最後に住んでいた場所、名前、亡くなったときの職業、死亡日
- あなたが親御さんの死亡を知り、自分が相続人であることを知った日、放棄する理由、相続する土地建物のおよその面積、相続預貯金のおよその金額、相続負債のおよその金額
記入例は、こちらから参照が可能です。
相続放棄照会書の提出
申述書を提出すると相続放棄照会書が届きます。質問項目がいくつかあるので、回答してから送りましょう。
相続放棄申述受理通知書の受領
家庭裁判所が相続放棄を認めると、相続放棄申述受理通知書が送られてきます。この通知書は、家庭裁判所が相続放棄を認めたことを証明する文書です。再発行できないので、失くさないようにしてください。
もし失くした場合は、通知書を送った家庭裁判所に相続放棄受理申述証明書を発行してもらうよう申し立てが可能です。
自分で手続きが可能なケース
相続開始後3ヶ月以内におこなう場合
親御さんが亡くなった日から3ヶ月以内にあなたが自分の意思で申し立て、かつ法定単純承認事由がなければ申述は認められますから、あなたが他人の手を借りずひとりで手続きしても大丈夫でしょう。
ただ認められるか疑問であるならば、相続の専門家に手続きを依頼するのも手段のひとつです。
専門家に手続きを依頼すべきケース
この場合の専門家とは、相続手続きに詳しい弁護士と司法書士を指します。すべての弁護士、司法書士が相続手続きに精通しているわけではありません。
3ヶ月以内に相続放棄すべきか判断が困難なケース
相続放棄の前に相続財産を調査する必要があります。どのような種類の財産、債務がいくらあるのか把握していないと、相続放棄するか否か決められません。
財産調査に時間がかかり3ヶ月以内に相続放棄すべきか否かの判断が困難と予想される場合、専門家に調査を依頼すべきです。3ヶ月超えそうな場合は家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることをおすすめします。(民法915条1項但し書き)
伸長の手続きの必要費用と必要書類は、相続放棄申述のときと同じです。
相続開始後3ヶ月経過してからおこなう場合
例えば親御さんに借金などないと思い込んでいて3ヶ月過ぎてから、借金があったり他人の保証人になっていたことがわかるケースが該当します。このようなケースでも、3ヶ月経過後の相続放棄申し立ては原則認められません。
しかし、例外として次の3つの条件をすべて充たせば認められる場合もあります。
- 被相続人には相続財産など何も無いと相続人が信じこんだこと。
- 相続人に相続財産を調査することが非常にむずかしい事情があったこと
- 被相続人には相続財産が無いと相続人が信じたことについて誰もがが納得できる理由があること(最高裁判例昭和59年4月27日)
このような場合、上申書を家庭裁判所に提出する必要があります。上申書とは、裁判所に対して一定事項を報告するための法的文書です。3ヶ月を過ぎて相続放棄を申請する場合や、相続人となったことを知ったのが遅かった場合には、その理由を上申書に記載し相続放棄を認めてもらうことになります。
書面で上記の3条件に該当することを説明し、その裏付け資料も添付しなければなりません。
「通常なら認められないが、このケースはしょうがない。認めよう」と家庭裁判所を説得できるように書く必要があります。このような資料の収集、裁判所を納得させる法的文書の記載は、相続の専門家でなければおそらく不可能でしょう。
弁護士にのみ依頼するケースとは
訴訟事件、非訟事件その他一般の法律事件に関する法律事務を、弁護士または弁護士法人でないものが報酬を得る目的で反復継続して取り扱うことはできません。(弁護士法72条)
弁護士に依頼するメリット・デメリット
メリット
依頼者の代理人として手続きすべてを代行可能。弁護士は依頼者であるあなたの代理人として、相続放棄の手続きすべてを代行できます。代理人である弁護士が権限内においてあなたのためにすることを示して行った意思表示は、あなたに対して直接に効力を生じます。(民法99条1項)
代理行為の一例は次のとおりです。
債権者との対応
債権者からの督促、問合せ等への対応をすべて弁護士に任せられ、ストレスから解放されます。
家庭裁判所への申述、連絡
相続放棄申述書の作成・提出も任せられます。
相続放棄が却下された場合の即時抗告
相続放棄が認められなかった場合、代理人である弁護士に通知が届き、弁護士が即時抗告します。このケースの即時抗告では、却下した家庭裁判所へ抗告状を提出しなければなりません。
却下通知を受けた日の翌日から2週間以内に申し立てする必要があり、高等裁判所が再審理します。ただし、再審理により相続放棄が認められるとは限らないのでご注意ください。
デメリット
費用が司法書士より高めです。弁護士事務所によって費用は違います。場合によっては追加費用のかかるケースもございます。
熟慮期間を超えているケース
上申書を提出し期限を超えた事情を説明しなければならないため、追加費用が発生します。おおよその目安は1万円から5万円程度です。
相続財産調査を依頼するケース
おおよそ20万円から30万円です。案件によって調査にかかる手間暇が異なるため、調査費用に幅があります。
司法書士に依頼すべきケースとは
訴訟がからまないケース
訴訟がからむケースは、原則として弁護士または弁護士法人しか取り扱いできません。しかし、訴額が140万円以下であれば認定司法書士でも受任できます。認定司法書士とは、以下の簡裁訴訟代理関係業務を遂行できる司法書士です。
訴額140万円以下のケース
・簡易裁判所にて訴額140万円以下の民事紛争について民事訴訟手続き、民事保全手続き、民事調停手続きなどを依頼人に代理して行う(認定司法書士が受任可能)(司法書士法3条6項イ)
・簡易裁判所にて依頼人の代理人として、給料の差し押さえなどを申し立てる。
・紛争の目的の価額が140万円以下の民事紛争について、依頼人の代理人として裁判になる前に、または裁判外で解決のための手続きをする。
・紛争の目的の価額が140万円以下の民事紛争について、依頼人の相談に応じる。
司法書士に依頼するメリット・デメリット
メリット
弁護士に比べ費用が概ね安価です。法書士事務所によって費用は違います。
当事務所の場合、相続放棄まるごとパックをご案内しております。戸籍収集(3名まで)相続関係説明図作成も含み6万6,000円でご案内しております。
熟慮期間を超えているケースと相続財産調査を依頼するケースの費用は弁護士が取り扱う場合と同じです。
デメリット
依頼者の代理行為は不可となります。例えば相続放棄に関する訴訟、債権者との対応などはできません。
弁護士または弁護士法人のみが訴訟事件に関する法律事務を取り扱えるからです。
相続放棄において司法書士が取り扱い可能な業務は次のとおりです。
- 相続放棄申述書などの書類作成
- 戸籍謄本等の収集
- 相続放棄照会書に対する回答書の書き方についてのアドバイス
まとめ
相続放棄の手続き、専門家に依頼すべきケース、依頼した場合のメリット・デメリットについて解説してきました。あなたは手続き内容を理解され、どの専門家に依頼するか決められたかと思います。
もし、あなたのケースが訴訟を必要とせず、債権者と対応しなくてもよいものであれば司法書士に依頼することをおすすめします。なぜなら上記のケースであれば、司法書士が対応でき、費用も弁護士より安価であるからです。
この記事の監修者
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