親が亡くなったあと借金を相続したくない、遺産分割の話し合いに参加したくないといったときは、相続放棄という選択肢があります。
相続放棄とは、亡くなった方のプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないという意思表示です。
これにより亡くなった方の借金の返済を回避できるわけですが、相続放棄は宣言するだけでなく、裁判所に認めてもらわなければ効果が発生しません。
この記事では、相続放棄を成立させるために必要な書類や手続きの流れについて解説します。
必要な書類は誰が相続するかで異なります。
それぞれのケース別に、書類の入手方法、取得費用と合わせてくわしく解説していきます。
相続放棄のすべてのケースで必要な書類と入手方法
誰が相続放棄するかに関わらず、すべてのケースで共通して次の書類が必要です。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する人の戸籍謄本
- 収入印紙800円分
- 切手500円程度
※戸籍謄本は紙、戸籍全部事項証明書はコンピューター化されたもので、記載の内容は同じです。
相続放棄申述書
裁判所に相続放棄を申し立てるための書類です。
これにより相続放棄が可能であるか判断されます。
家庭裁判所のホームページからダウンロード
相続放棄申述書の入手方法は次の2つです。
- 家庭裁判所の窓口に取りに行く(無料)
- 裁判所のホームページからダウンロードする(無料)
相続放棄申述書の書き方
申述書を記入する際は、裁判所のホームページにある記入例を参考にしましょう。
申述書の書き方について解説します。
裁判所名 |
亡くなった人が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所を記入します。 例)神奈川県内の家庭裁判所:「横浜」 |
日付 |
裁判所へ提出する日付を記入します。 |
申述人の記名押印 |
相続放棄する本人の氏名を記入します。 相続放棄する人が18歳未満であれば親権者・後見人の氏名を記入し、押印(認印でも可)します。 |
本籍・住所 |
略字などは使用せず戸籍謄本の記載の通りに記入します。 |
法定代理人等 |
相続放棄する人が18歳未満であれば、親権者・後見人の氏名・住所を戸籍謄本の記載の通りに記入します。 |
被相続人 |
亡くなった人の氏名・住所を戸籍謄本の記載の通りに記入します。 |
申述の趣旨 |
すでに記載があるので記入不要です。 |
相続の開始を知った日 |
当てはまるものに◯をつけます。 亡くなったことは当日知ったが、後日借金の存在を知ったという場合などは「4 その他」に○をします。 |
放棄の理由 |
当てはまるものがない場合は「6 その他」に○をつけ、端的に理由を記入します。 |
相続財産の概略 |
不動産は面積のみ記入します。 その時点で把握しているおおまかな数字を記入すれば問題ありません。 |
代筆は認められない場合もある
申述書の記入は自署が基本ですが、怪我や病気などで自署が難しいときは代筆が認められることもあります。
ただ認知症など本人が相続放棄という行為を認識できない状況では、代筆は認められません。
この場合は、相続人について成年後見の申立てをして、後見人を選任して相続放棄をします。
被相続人の住民票除票または戸籍附票
書類 |
内容 |
取得 |
費用 |
住民票除票 |
死亡や転出で住民登録が消去された後の住民票 |
最後の住所地の市町村役場 |
200〜300円 |
戸籍附票 |
戸籍が作られてから現在までの住所の記録を記載した書類 |
本籍地の市町村役場 |
300〜400円 |
相続放棄をする人の戸籍謄本
相続人であることの証明となります。
書類 |
内容 |
取得 |
費用 |
戸籍謄本 |
その戸籍に在籍する全員の身分を証明した書類 |
本籍地の市町村役場 |
450円 |
収入印紙800円
相続放棄申述書の上部に、800円分の収入印紙を貼付します。
書類 |
入手先 |
収入印紙 |
法務局・郵便局・一部のコンビニ |
切手
連絡用の切手です。
金額は提出する裁判所によって異なるので、提出先の裁判所のホームページや電話で確認しましょう。
横浜家庭裁判所の場合、84円切手が5枚、10円切手が5枚で合計470円分が必要です。
相続放棄する人ごとの必要書類と入手方法
相続する人が誰かによって、必要になる書類が異なります。
ここでは、それぞれのケースに分けて解説します。
各裁判所によって必要書類が異なる場合があるので、事前に確認しておきましょう。
<戸籍謄本以外の戸籍に関する書類の取得場所と費用>
戸籍に関する書類は、戸籍の状態によって書類の名称、取得費用が異なります。
書類 |
内容 |
取得 |
費用 |
除籍謄本 |
在籍していた人が戸籍を抜けたことにより誰もいなくなった状態の戸籍 |
本籍地の市町村役場 |
750円 |
改製原戸籍 |
法令の改正により戸籍の様式が変更された際の、変更前の古い戸籍 |
本籍地の市町村役場 |
750円 |
戸籍謄本は中に人が残っている状態、除籍謄本は中に誰もいない状態です。
改製原戸籍は法改正によって現在は使われなくなった戸籍です。
解説内で戸籍謄本と表記している場合でも、状況によっては除籍謄本や改製原戸籍を意味します。
配偶者が相続放棄する場合
- 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本
※通常配偶者は被相続人と同じ戸籍に載っているので、「相続放棄する人の戸籍謄本」と兼ねて1通で足ります。
子または孫が相続放棄する場合
<相続放棄する人:子>
- 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本
※子供が未婚で被相続人と同じ戸籍に載っていれば、「相続放棄する人の戸籍謄本」と兼ねて1通で足ります。
<相続放棄する人:孫>
被相続人の子がすでに死亡していれば孫が相続人となり、次の書類が必要です。
- 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本
- 被相続人の子の死亡が記載された戸籍謄本
親または祖父母が相続放棄する場合
<相続放棄する人:親>
被相続人に子供・孫がいない場合またはその全員が相続放棄しているときは、被相続人の親が相続人となり、次の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の子・孫の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
<相続放棄する人:祖父母>
被相続人に子供・孫がおらず、親がすでに死亡している場合、被相続人の祖父母が相続人となり、次の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の子・孫の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の親の死亡の記載がある戸籍謄本
兄弟姉妹または甥・姪が相続放棄する場合
<相続放棄する人:兄弟姉妹>
被相続人に子供・孫がおらず親・祖父母がすでに死亡している場合、被相続人の兄弟姉妹が相続人となり、次の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の子・孫の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の親・祖父母の死亡の記載がある戸籍謄本
<相続放棄する人:甥・姪>
被相続人に子供・孫がおらず、親・祖父母・兄弟姉妹がすでに死亡している場合、被相続人の甥・姪が相続人となり、次の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の子・孫の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の親・祖父母の死亡の記載がある戸籍謄本
- 被相続人の兄弟姉妹の死亡の記載がある戸籍謄本
相続放棄に必要な書類の提出方法
提出に関する次の項目について解説します。
- 提出先
- 提出方法
- 提出期限
- 提出した書類の原本を返却してもらう申請
書類の提出は家庭裁判所へ
提出するのは、被相続人が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所です。
管轄の裁判所は裁判所一覧から調べられます。
窓口への持参か郵送
書類の提出方法は次の2つです。
どちらでも提出しやすい方で問題ありません。
- 家庭裁判所の窓口へ持参する
- 家庭裁判所へ郵送する
郵送について決まりはありませんが、普通郵便よりも送付した記録が残る書留郵便やレターパックプラスの方が安全です。
相続放棄の申述期限は原則として3か月
相続放棄は、原則として相続開始を知った日から3か月以内に申し出なければなりません。(民法915条1項)
この期間を過ぎてしまうと自動的に相続する意思があるものとみなされます。(民法921条2号)
ただ3か月を過ぎたら完全に相続放棄が不可能になるというわけではなく、正当な理由がある場合は期間の延長が認められます。
期限の延長ができるかは裁判所の判断によりますが、例をあげると次のような場合です。
- 財産の把握に時間がかかっている
- 相続人の所在が不明
これらは限定的なケースであり、原則としては被相続人の死亡した日から3か月以内に手続きするものと心得ておきましょう。
3ヶ月を過ぎて相続放棄をするときは、司法書士や弁護士に必ず相談することをおすすめします。
戸籍謄本等の原本還付申請書も一緒に提出
提出した戸籍謄本などの原本は、「戸籍謄本等の原本還付の申請」によって返却してもらえます。
原本を返却してもらえると、別の手続きでも使用できるので便利です。
原本の返却を求める際は、相続放棄を申し立てるのと同時に次の書類を提出します。
- 原本還付申請書
- 原本の返却を求める書類のコピー
原本還付申請書に決まった書式はないので自作でも対応できます。
参考:書式例
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄の手続きの流れについて順番に解説します。
1.相続放棄申述書を作成する
裁判所のホームページからダウンロードするか家庭裁判所の窓口で申述書を入手します。
必要事項を記入し、収入印紙800円分を貼付します。
2.家庭裁判所へ書類を提出する
家庭裁判所へ書類一式を持参もしくは郵送します。
3.照会書に回答し返信する
提出後、約1〜2週間すると「照会書」が送付されます。
照会書とは、相続放棄の申し立てが本人の意思に基づいたものなのかなど確認すべきことについて裁判所が本人に問い合わせる書類です。
期限までに回答書を作成し、裁判所へ返送します。
照会書が送付されないケースもありますが、問題ありません。
4.相続放棄申述受理通知書を受け取る
相続放棄が認められると、約1〜2週間後に裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。
これによりすべて完了となります。
5.債権者・他の相続人へ連絡する
被相続人に借金があった場合は、債権者に相続放棄申述受理通知書のコピーを郵送し、相続放棄した事実を伝えます。
また自分の次に相続人となる人が、突然借金の返済を求められるなどのトラブルを避けるために、次順位の人にも相続放棄が成立したことを連絡しておきましょう。
まとめ
相続放棄の手続きに必要となる書類について解説しました。
ケースによっては必要となる戸籍が多かったり複雑であったりして、多くの労力や時間がかかる可能性があります。
注意が必要なのは、書類を集めるのに思いのほか時間がかかって、期限を過ぎてしまうというケースです。
期限を過ぎてしまうと自動的に相続人となり、被相続人に借金があった場合は負債を背負うことになります。(民法921条2号)
そのようなリスクを避けるためにも、不安な要素があれば個人で進めることなく、一度専門家に相談しましょう。
限られた期間の中で確実に相続放棄の手続きを完了させるためには、司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
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