親がアパートや貸家を所有したまま亡くなると、悲しむ間もなく家賃の入金、入居者からの連絡、修繕費、管理会社との契約などが動き続けます。「遺産分割が終わるまで家賃は誰が受け取るのか」「賃貸借契約を結び直すのか」と戸惑う方も多いでしょう。
結論からいうと、賃貸物件を相続しても賃貸借関係は原則として続きます。遺産分割が終わるまでは、相続開始後の家賃収入を特定の一人だけのものにせず、法定相続分に応じて管理・申告するのが基本です。
この記事では、賃貸不動産を相続した直後に行うこと、家賃の分け方、入居者・管理会社への対応、準確定申告、相続税評価、相続登記までを司法書士が解説します。
- 賃貸物件の相続では、まず契約書・入金・敷金・ローン・修繕状況を一覧にします
- 未分割期間の家賃収入は、代表者の口座へ入っていても各相続人へ法定相続分で帰属するのが基本です
- 管理と税務を止めず、遺産分割、相続登記、管理会社・入居者への通知を順番に進めます
- 賃貸不動産を相続し、最初に何をすべきか知りたい方
- 親のアパートや貸家を相続し、家賃を誰が受け取るか困っている方
- 賃貸経営を続けるか売却するか、家族で判断したい方
目次
1. 賃貸不動産を相続した直後に行う7つのこと
賃貸物件では、所有者が亡くなっても入居者の生活と建物管理は止まりません。遺産分割を急ぐ前に、まず次の情報を集めます。
- 登記事項証明書、固定資産税納税通知書、名寄帳で土地・建物を特定する
- 賃貸借契約書、更新記録、敷金・保証金の台帳を確認する
- 管理会社、家賃保証会社、火災保険会社の契約を確認する
- 家賃の入金口座、滞納、未収金、前受家賃を確認する
- 修繕、退去、更新など進行中の案件を確認する
- ローン、抵当権、管理費、光熱費、税金を確認する
- 入居者情報を扱う相続人と連絡窓口を決める
1-1. 管理会社へ死亡の連絡をする
管理会社が入っている場合は、死亡の事実、連絡窓口、当面の家賃送金先、緊急修繕の承認方法を確認します。遺産分割が未了なら、誰が最終的な所有者になるか決まっていないことも伝えます。
死亡後も故人名義の口座へ家賃が振り込まれ続けると、口座凍結後の入出金や相続人間の精算が複雑になります。代表管理口座を設ける場合も、その口座へ入った家賃が代表者個人の収入になるわけではありません。入金と支出の明細を残しましょう。
1-2. 入居者へは確定した情報だけを通知する
入居者には、管理窓口や振込先が変わる場合に書面で案内します。相続人を装った詐欺と疑われないよう、管理会社と連名にする、相続関係を説明する、問い合わせ先を示すなどの配慮が必要です。
遺産分割前に「新しい大家は長男です」と断定すると、後で取得者が変わったときに混乱します。まずは「相続手続中の連絡窓口」として案内するのが安全です。
2. 遺産分割が終わるまで家賃は誰のもの?
2-1. 未分割中の家賃は法定相続分で各相続人に帰属する
相続開始後に発生した家賃は、建物そのものとは別に発生する収入です。遺産分割が終わるまで賃貸不動産が共同相続人の共有状態にある場合、家賃収入は各相続人へ法定相続分に応じて帰属するのが基本です。
国税庁の「未分割遺産から生ずる不動産所得」も、特定の相続人が家賃を管理していても、遺産分割が確定するまでは各共同相続人が法定相続分に応じて申告すると案内しています。
2-2. 後から取得者が決まっても未分割期間の申告は戻らない
例えば、子3人が相続人で、長男の口座に毎月30万円の家賃が入り、半年後に長男が物件を取得すると決まったとします。遺産分割までの家賃180万円が、最初からすべて長男の所得になるわけではありません。
国税庁は、遺産分割が確定しても、未分割期間中の所得の帰属には影響せず、分割確定を理由とする更正の請求や修正申告はできないとしています。入金口座ではなく、発生時点の権利関係に基づいて記帳することが重要です。
これは最高裁平成17年9月8日判決が、相続開始後に生じた賃料債権を各共同相続人が相続分に応じて確定的に取得し、後の遺産分割の影響を受けないと示した考え方にも沿います。
2-3. 経費も同じ期間で整理する
管理委託料、共用部の電気代、通常の修繕費、火災保険料など、家賃収入を得るために直接必要な費用は、不動産所得の必要経費になり得ます。ただし、相続税、所得税の家事関連費、元本返済など、すべての支出が経費になるわけではありません。誰が立て替えたか、何のための支出か、領収書があるかを記録します。
3. 賃貸借契約と敷金はどうなる?
3-1. 大家が亡くなっても契約は自動終了しない
賃貸不動産の所有者が亡くなっても、それだけで入居者との賃貸借契約が終了するわけではありません。相続人は、賃貸人としての地位に伴う権利と義務を承継します。
家賃を受け取る権利だけでなく、建物を使用できる状態に保つこと、契約に従って修繕へ対応すること、退去時に敷金を精算することなども引き継ぐ可能性があります。
3-2. 敷金・保証金を相続財産から漏らさない
敷金や保証金は、退去時に返還が必要になる可能性のある預り金であり、賃貸人の地位とともに返還義務も承継されるのが基本です。通帳残高だけを見て遺産を分けると、将来の返還資金が不足しかねません。部屋ごとの預り額、未払家賃、原状回復費との精算状況を管理会社の台帳と契約書で照合します。
4. 相続人が複数いる間の管理と契約変更
4-1. 緊急修繕は放置しない
漏水、設備故障、外壁の落下危険など、入居者や近隣へ損害が広がるおそれがある場合は、遺産分割を待たず対応が必要です。連絡を受けた相続人は他の相続人へ共有し、見積書、写真、承認経緯を残します。
4-2. 共有中の管理・変更に必要な同意を確認する
賃貸不動産の売却、建替え、大規模改修、新たな長期契約などは、共有者の権利へ大きく影響します。行為の内容によって必要な同意の範囲は異なるため、共有状態のまま一人の判断で進めず、相続人間で合意範囲と権限を確認してください。
共有中の行為は、一般に次のように整理します。
| 区分 | 例 | 原則的な決め方 |
|---|---|---|
| 保存行為 | 雨漏りの応急処置など、現状を維持する行為 | 各共有者が単独で可能 |
| 管理行為・軽微な変更 | 通常の賃貸管理、期間や内容が限定された契約など | 共有持分の価格の過半数 |
| 重大な変更・処分 | 建替え、物件全体の売却など | 共有者全員の同意 |
修繕、新規契約、契約更新がどの区分になるかは、工事の規模や契約期間などで変わります。判断に迷う場合は、契約締結前に司法書士や弁護士へ確認してください。
日常管理を代表者へ任せる場合は、家賃の受領、通常修繕、管理費の支払、管理会社との連絡など、任せる範囲を書面にするとトラブルを減らせます。
親の死後、管理会社から「来月の振込先を教えてください」と言われ、近くに住む長男の口座を指定することがあります。半年で家賃が180万円たまっていても、その全額を長男が生活費に使ってよいわけではありません。
未分割中は、家賃と経費を相続人ごとの持分で整理する必要があります。専用口座を作り、入金、管理料、修繕費、税金の出入りを一本化すると、遺産分割と確定申告の双方で説明しやすくなります。
5. 賃貸不動産を相続したときの税務期限
| 手続 | 主な内容 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 準確定申告 | 被相続人の1月1日から死亡日までの所得 | 相続開始を知った日の翌日から4か月以内 |
| 相続人自身の所得税申告 | 死亡後に各相続人へ帰属した不動産所得 | 原則、翌年の確定申告期間 |
| 相続税申告 | 貸家、土地、預金、債務など相続財産全体 | 相続開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 相続登記 | 賃貸物件の所有者名義を変更 | 取得を知った日から3年以内 |
5-1. 死亡日までの所得は準確定申告
被相続人に申告すべき不動産所得がある場合、相続人は死亡した年の1月1日から死亡日までの所得を計算します。国税庁の準確定申告案内では、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告・納税するとされています。
死亡日前後の家賃をどちらへ計上するかは、契約上の支払日や収入計上時期によって判断が必要です。通帳の入金日だけで機械的に分けないでください。
相続人が複数いる場合は、連署で提出する方法のほか、各相続人が別々に提出し、他の相続人へ申告内容を通知する方法があります。未収家賃、前受家賃、減価償却、固定資産税などの計上は個別事情で変わるため、賃貸台帳と前年の申告書をそろえて税理士へ確認しましょう。
5-2. 死亡後の家賃は相続人自身の不動産所得
死亡後に発生する家賃は、被相続人の準確定申告ではなく、相続人側の不動産所得として整理します。未分割なら法定相続分、分割後は取得者に帰属するのが基本です。
被相続人が青色申告をしていても、その承認が相続人へ自動的に引き継がれるわけではなく、相続人ごとに申請が必要です。国税庁の青色申告制度が示す主な期限は次のとおりです。
| 被相続人の申告状況・死亡日 | 相続人の青色申告承認申請期限 |
|---|---|
| 被相続人が白色申告者で、1月16日以後に承継 | 業務承継日から2か月以内 |
| 青色申告者で、死亡日が1月1日~8月31日 | 死亡日から4か月以内 |
| 青色申告者で、死亡日が9月1日~10月31日 | その年の12月31日 |
| 青色申告者で、死亡日が11月1日~12月31日 | 翌年2月15日 |
原則期限や1月15日以前の承継など別の扱いもあるため、税理士または税務署へ早めに確認してください。
5-3. 貸家と敷地は相続税評価が異なることがある
入居者がいる貸家の敷地は、一定の要件を満たすと貸家建付地として評価します。国税庁の貸家建付地評価では、自用地価額から借地権割合と借家権割合などを用いて調整する考え方が示されています。
建物自体の貸家評価は、原則として固定資産税評価額から、その評価額に借家権割合と賃貸割合を乗じた額を差し引きます。国税庁の貸家評価でも計算の考え方が示されています。
一方、相続時に空室がある場合でも、直ちにすべて自用評価になるとは限りません。国税庁の一時的空室の判断例のように、募集状況、空室期間、従前の賃貸実績などを総合して判断します。「賃貸用に建てたから必ず評価が下がる」とも、「空室だから必ず自用評価」とも言い切れません。
6. 賃貸不動産にも相続登記が必要
賃貸中であっても相続登記の義務は変わりません。法務省の相続登記義務化案内では、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が必要とされています。
制度の全体像は、当事務所の相続登記義務化を司法書士が解説した記事でも確認できます。
正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になる可能性があります。 2024年4月1日より前の相続で未登記の物件も対象で、取得を以前から知っていた場合は原則として2027年3月31日が期限です。
6-1. 登記前でも管理は必要で、所有権移転には登記が必要
相続登記が終わる前でも入居者対応や緊急修繕は必要です。売買契約の可否とは別に、買主への所有権移転登記や担保設定登記を行う前提として、相続登記を整える必要があります。
収益物件は土地と建物、私道、駐車場、ごみ置場などが別の不動産として登記されていることがあります。固定資産税通知書だけでなく、名寄帳や2026年2月開始の所有不動産記録証明制度なども使い、漏れを確認します。
6-2. 遺産分割協議書へ賃貸経営の債権・債務も反映する
遺産分割協議書では不動産の表示だけでなく、未収家賃、敷金返還債務、管理会社への未払金、修繕費の立替えなどを誰が承継・精算するかも整理します。
不動産を取得する相続人が家賃や敷金を当然にすべて取得・負担するとは限らないため、税理士・司法書士と連携して記載を検討します。
7. 賃貸経営を続けるか売却するかの判断基準
| 確認項目 | 継続を検討しやすい状態 | 売却・整理も検討する状態 |
|---|---|---|
| 収支 | 修繕・税金控除後も黒字 | 表面上黒字でも大規模修繕で赤字 |
| 入居 | 稼働が安定している | 空室・滞納が多い |
| 建物 | 修繕計画と資金がある | 老朽化し安全対応が必要 |
| 相続人 | 経営担当と分配方法に合意 | 意見対立や連絡困難がある |
| 資金 | 納税資金を確保できる | 相続税や代償金の資金が不足 |
| 将来性 | 地域の賃貸需要が見込める | 人口・需要低下が強い |
家賃の総額だけで判断せず、固定資産税、管理委託料、保険料、空室損、大規模修繕、ローン返済を含む実質収支を確認します。
登記費用も収支と納税資金に影響します。費用の内訳は相続登記の費用相場と司法書士報酬をご覧ください。
共有のまま長期間経営すると、相続人の死亡によって共有者がさらに増えることがあります。誰が所有し、誰が管理し、利益と負担をどう分けるかを遺産分割の段階で決めることが重要です。
8. 専門家へ相談した方がよいケース
- 賃貸物件が複数あり、登記名義や契約書が一致しない
- 相続人の一人が家賃を管理し、収支を開示してくれない
- 敷金、滞納、立退き、修繕トラブルがある
- 借入金や抵当権が残っている
- 相続税申告と不動産所得の申告が必要
- 一人が物件を取得し、他の相続人へ代償金を支払う
- 相続後すぐに売却したい
登記と遺産分割協議書は司法書士、税務申告と評価は税理士、相続人間の紛争や立退き交渉は弁護士、不動産価格と売却は宅地建物取引業者など、課題に応じて連携します。
9. 賃貸不動産の相続についてよくある質問
9-1. 親が亡くなった後も入居者は家賃を払う必要がありますか?
賃貸人が亡くなっただけで賃貸借契約が当然に終了するわけではないため、入居者の家賃支払義務も原則として続きます。振込先を変更する場合は、相続手続中の連絡窓口と根拠が分かる書面で通知します。
9-2. 遺産分割前の家賃を長男が全額申告してもよいですか?
原則としてできません。未分割中の不動産所得は、各共同相続人へ法定相続分に応じて帰属します。代表者の口座で受け取った場合も、各相続人の持分に分けて記帳・申告します。
9-3. 大家の名義変更のため賃貸借契約を結び直しますか?
相続だけを理由に必ず新規契約を結び直すわけではありません。賃貸人の地位を承継した旨や新しい連絡先・振込先を通知し、必要に応じて覚書などで確認します。契約内容を変更する場合は入居者との合意が必要です。
9-4. 敷金は相続財産に含まれますか?
敷金は賃貸人の地位とともに返還義務が承継されるのが基本です。手元資金の残高だけで判断せず、部屋ごとの預り額と返還義務を確認し、相続税申告や遺産分割での扱いを税理士等へ確認してください。
9-5. 賃貸物件の相続登記はいつまでですか?
相続で所有権を取得したことを知った日から3年以内が原則です。遺産分割が成立した場合には、その成立日から3年以内に分割内容を反映した登記をする義務もあります。
9-6. 賃貸物件を相続放棄すれば家賃や管理から離れられますか?
相続放棄は賃貸物件だけを選んで放棄する制度ではなく、原則として資産と負債を含む相続全体を放棄する手続です。放棄時にその物件を現に占有している人は、相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで保存義務を負う場合があります。家庭裁判所への申述期限は原則3か月なので、家賃の受領や契約変更をする前に専門家へ相談してください。
10. まとめ:賃貸不動産の相続は家賃・管理・税務・登記を同時に整理する
賃貸不動産を相続したら、まず物件、契約、家賃、敷金、修繕、ローンを一覧にし、管理会社と相続人の連絡窓口を決めます。遺産分割前の家賃は、代表者が受け取っていても法定相続分で各相続人へ帰属するのが基本です。
家賃だけを分けて建物管理を後回しにせず、4か月の準確定申告、10か月の相続税申告、3年以内の相続登記を一つの工程として管理しましょう。 あいりん司法書士事務所では、賃貸不動産を含む相続登記や遺産分割協議書の作成についてご相談を承っています。

