家族のお金はどうなる?
故人の預貯金の相続手続きについて家族を亡くして辛い中、お金のことで揉めるのはもっと辛いものです。
でも現実問題として「お葬式代は本人の預金から」と考えるものですよね。
ところで、平成28年に最高裁判所はこういう判決を出しています。
「預貯金債権は遺産分割の対象となる」
これは大きな変更でした。つまり金融機関における手続きは、故人の遺言がない限り「相続人全員の署名と捺印」が必要になってしまったんです。
ちなみに、金融機関ごとに、預貯金の相続手続きは異なります。書式も違ってくるので、これは一律に案内ができません。対象の金融機関に問い合わせて、手続き方法を教えてもらって進めた方がいいでしょう。
口座が凍結してしまう原因
金融機関に「家族が亡くなった」と伝えて大丈夫?
「お葬式代、先に引き出しておけないかな……」
家族が亡くなったとき、残された家族の間でそういうお話になることは多いと思います。
とはいえ、故人の口座は故人のものですから、金融機関はその人が亡くなったとわかると口座を凍結します。
このように、簡単には引き出せなくなってしまうんですね。
では、金融機関はどうやってその情報を知るのでしょうか?
「死亡届を出したから…?」
実は、そうではないんですね。
役所に出された死亡届を金融機関がチェックしているわけではありません。
実は、金融機関が口座を凍結するきっかけは、ほとんどが残された家族・相続人からの自己申告です。
相続人が「口座を凍結してほしい」と連絡する。
もしくは「相続手続きはどうしたらいいか」という相談によって、金融機関は、預金者の死亡を認識します。それだけで、自動で口座凍結手続きが進んでしまう金融機関もあるんです。
「ちょっと聞いておきたかっただけなのに……」
と後から後悔しても遅いので、相談は慎重に行うことをお勧めします。
逆に言えば、このような自己申告がない限りは、金融機関が口座名義人の死亡を確認できることはほぼありません。
そのため、死亡の事実が確認できず、家族からの申告もなく(家族が、その金融機関に故人が口座を持っていたことを知らないので連絡が来ない)実質休眠口座となっている口座が多数あり、これも一種の社会問題となっています。
預金口座が凍結されると困るのか
預金口座が凍結されると、どう困るのでしょうか?
・払い戻しができない
・入金ができない
・自動引き落としができない
たとえば、電気代が毎月引き落とされていた口座なら、それももちろんストップしてしまいます。
当然お葬式代も引き出せません。そのため、金融機関に相談する前に、何が自動引き落としされていたかを確認しておきましょう。
何の引き落としかわからないものについては、そのまま放置でも大丈夫です。
引き落としができなくなると、請求元は手紙などで通知してくるはずです。そのタイミングで、何の請求だったかを確認できますよ。
法律上、お金の引き出しはどう判断される?
銀行口座を持っていない人は、おそらくいないでしょう。
そして、死亡が確認され、預金が凍結されると、専門の手続きを取らないとその払い戻しができなくなります。
相続手続きの中で、預金口座の手続きは大きなウェイトを占めています。
ここで、最初にご紹介した平成28年の判決を引用します。即ち「預貯金債権は遺産分割の対象となる」ということですね。
この判決が出るまでは、預金債権は可分債権とされていました。相続開始と同時に相続人へ法定相続分の割合で分割されるという解釈です。
簡単に言うと「故人の口座のうち、自分の法定相続分の金額については、他の相続人の同意なく引き出すことができる」というのが法律論でした。
ただし、上記の判例が出る前から、金融機関側では、相続人全員からの同意書がないと引き出しに応じない運用が基本でしたので、法律論と金融機関の運用は異なっていたのです。
そこにこの判例の変更があって、法的な面からも、相続人は、単独では自己の相続分のみの引き出し手続きはできないということになりました。
◆葬儀や入院費用にお金が必要だけれども、絶対に引き出しできないの?
先ほど紹介したとおり、金融機関は、申告がなければ死亡届を出したことを知ることはできないはずです。
そのため、ATMで故人のキャッシュカード・暗証番号を使ってお金を下ろすことは可能です。
ただ、それはトラブルの元にもなりえます。
葬儀代など必要な費用を下ろしたのに「勝手に使い込まれた」など遺族間で揉め事が起きるのは、よくあることだからです。そのため、相続発生の事実を知ると、金融機関は口座の凍結を行うわけですね。
けれども、同時に、一番お金が必要な時期であることも考慮されています。
たとえば、故人の入院費、医療費、葬儀費用というまとまった額を、誰かが立て替えなければならないというのは大きな問題になります。
ちなみに、令和元年に改正民法が施行されたことで、故人の預貯金の引き出しは、少額なら可能になっています。
つまり、他の相続人の承諾なしで、一定額までは故人の銀行口座から預貯金を引き出すことができるようになりました。
この金額は、以下の式に沿って決められます。
・故人の預貯金額 × 1/3 × その相続人の法定相続分(相続人1人あたり)
・かつ、金融機関ごとに上限が150万円(相続人1人あたり)
150万円あれば、とりあえずの費用はまかなえそうですね。
ただし、この引き出した金額は遺産の一部分割とみなされるので注意が必要です。
ともあれ手続きは、金融機関ごとに変わってきます。そのため、口座のある金融機関に相談することが大切です。
できれば、相続が発生するより前に確認しておいた方が、いざというときに慌てなくて済むはずですよ。
預貯金の相続手続きのために必要なもの
色々面倒ですが、それでも相続は進めないわけにはいきません。
詳細は各金融機関に相談するしかないのですが、それでも、共通して必要になる書類があるので、覚えておきましょう。
・戸籍謄本(被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本)
・相続人全員の印鑑証明書 など
「銀行口座分、書類を揃えるのは大変……」と思いますが、原則として、原本は1部で大丈夫です。
金融機関は提出された書類のコピーを取って、原本を返してくれます。
または、コピーを持参してほしいと先方から指示されることもありますね。
ただ、金融機関以外での手続き(株式の相続、生命保険会社や役所の相続手続き)の場合、戸籍謄本の原本を要求される可能性があります。
念のため複数取得した方が、後々手間がかからないかもしれません。
とはいえ、戸籍謄本は1通取得するごとにお金を取られますから、最低限の枚数に抑えておきたいところです。
まとめ
金融機関で相続手続きを行うために、意外とネックになってくるのが「営業時間」です。
平日の9~15時に手続きを行わなければならず、複数の金融機関を回る必要も出てくるでしょう。
しかも、金融機関での相続手続きはそれなりに時間がかかります。
1日仕事を休まなくてはならないかもしれません。
他にも、相続登記についても、法務局が稼働している平日に行う必要があります。
仕事が休めないなど、時間が取れない事情がある方は、司法書士など相続の専門家に任せるのも一つの方法です。
専門家に依頼することで「行ってみたら書類が足りなかった」などのミスがないスムーズな相続を行うことができるでしょう。