この記事を要約すると
- 相続放棄は一度申請すると撤回することができないので、全ての財産を把握した上で相続するか、相続放棄するかを判断すべき
- 相続放棄の期限は相続を知ってから3ヶ月以内と申述期限が決まっている
- 相続放棄の手続きは自分で手続きすることができるが、期限が迫っている場合や判断がつかない場合は専門家へ相談が必要
相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の財産を一切相続せず、全て手放す行為です。
相続にはどのような選択肢があるのか、どのような時に相続放棄すべきなのか、知りたいという方は多いのではないでしょうか。
この記事では、相続放棄の基礎的な知識やメリット・デメリット、判断基準、専門家に依頼すべきケースについて解説します。
目次
相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人の財産を一切引き継がない行為です。預貯金・不動産などのプラスの財産も、借金などのマイナスの財産もどちらも相続しないことをいいます。
被相続人が亡くなった時、相続人には3つの選択肢があります。
これらがどう違うのか、相続放棄の範囲はどこまで及ぶのかについて解説します。
3つの選択肢の違い
相続人となった時の選択肢は、次の3つです。
単純承認 | 限定承認 | 相続放棄 | |
相続方法 | プラス・マイナスともに全て相続する | プラスの財産の範囲内に限って相続する | プラス・マイナスともに全て相続しない |
期限 | 期限なし | 3か月以内 | 3か月以内 |
申立て | 不要 | 相続人全員 | 単独で可能 |
(民法920・922・923・924条)
単独でも申立てができる相続放棄と違って、限定承認は相続人全員が同意し共同で申立てなければなりません。
相続放棄の範囲はどこまで?
相続放棄の範囲がどこまで及ぶのかというと、被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に死亡している場合は甥・姪)までです。(民法887、889、890条)
相続は、次の順番で移ります。被相続人の配偶者は、必ず相続人となります。配偶者が相続放棄しても相続の権利は移動しません。
- 被相続人の子(既に亡くなっている場合は孫)
- 被相続人の親(既に亡くなっている場合は祖父母)
- 被相続人の兄弟姉妹(既に亡くなっている場合は甥・姪)
この先の親族に相続権は移りません。
相続放棄のメリット・デメリット
メリット・デメリットは、次の通りです。
相続放棄のメリット
マイナスの財産を相続せずに済む
財産放棄の最大のメリットは、被相続人の借金などの債務を背負わずに済むということです。相続放棄すれば、被相続人に多額の借金があっても返済する義務はなくなります。
相続トラブルに関わらずに済む
相続人同士での話し合いである遺産分割協議に参加する義務もなくなり、相続人間でトラブルが起きても関与せずに済みます。
関係が良好でない親族と関わりたくない、財産をめぐって揉めたくないという場合には、相続放棄のメリットは大きいでしょう。
相続放棄のデメリット
プラスの財産を相続できない
借金などマイナスの財産を相続しないのと同時に、預貯金・不動産などプラスの財産も相続できません。被相続人名義の家に住んでいた場合は家を退去しなければならず、新しい住まいを探す必要があります。
相続人間でトラブルになる可能性がある
借金を理由に相続放棄した場合、次に相続人となる人に通知していないことでトラブルになる可能性があります。新たな相続人の立場からすると、知らぬ間に相続人となっていた上に借金まで背負わされたという印象にもなりかねません。
相続放棄が受理されたら次に相続人となる人に、相続放棄したこと、借金が含まれていることを速やかに通知することをお勧めします。
相続放棄する時の注意点
- 財産放棄とは違う
- 3か月の申述期限がある
- 一度相続放棄をしたら撤回はできない
- 生きている間は相続放棄できない
- 代襲相続はできない
- 相続放棄しても管理義務は残る
ひとつずつ解説します。
財産放棄とは違う
相続放棄と財産放棄には、次のような相違点があります。
相続放棄 | 財産放棄 | |
地位 | 初めから相続人ではなかったことになる | 相続人のまま |
法的な相続人の義務 | なし | 残る |
債務の相続 | 相続しない | 相続する |
手続きの方法 | 家庭裁判所に申立て | 遺産分割協議での意思表示 遺産分割協議書の作成 |
期限 | 3か月以内 | なし |
(民法915、938、939条)
家庭裁判所で法的な手続きを経て成立する相続放棄に対して、財産放棄は遺産分割協議で話し合い、「財産を相続しない」という意思表示をすることで成立します。(民法938条)
借金がある場合、財産放棄しても債権者からの支払い請求は拒否できないため注意が必要です。
3か月の申述期限がある
相続放棄は、基本的には被相続人が亡くなってから3か月以内に申請しなければなりません。(民法915条)
期限内に手続きしなかった場合は、相続する意思があるものとみなされるため相続放棄するのは難しくなります。(民法921条)期限内に申請するのが難しい時は、期限を延長してもらう手続きをしましょう。
一度した相続放棄は撤回はできない
原則として相続放棄は、一度申請して受理されると撤回できません。(民法919条1項)後でプラスの財産があることがわかっても、相続放棄を取り消すことはできません。
ただし次の場合には、取消しが可能です。(民法919条2項)
- 第三者による詐欺や脅迫による場合(民法96条)
- 未成年者・成年被後見人など法律行為に制限がある人が単独で行った場合(民法5、9、13、17条)
また受理される前の申請の取り下げは可能なため、都合が悪くなった場合には早めに手続きしましょう。(家事事件手続法82条1項)
生きている間は相続放棄できない
生前の相続放棄はできません。相続放棄できるのは、被相続人が亡くなってからです。生前の相続放棄に関する念書には、法的効果はありません。
代襲相続はできない
相続放棄しても、代襲相続は発生しません。代襲相続とは、本来相続人となる人が既に亡くなっている場合にその子が相続することです。
本来の相続時とは異なり、借金を理由に相続放棄した場合でもその子に借金が相続されることはありません。
相続放棄しても管理義務は残る
相続財産の中に土地や家屋などの不動産がある場合は、次の相続人が不動産の管理を始めるまでは管理責任が残ります。(民法940条1項)
管理とは具体的に次のような行為です。
- 老朽化した建物の修理
- 不法占拠者の排除
- 除草
- 害虫の駆除
相続人全員が相続放棄した場合は、財産の管理を引き継いでもらうため相続財産管理人の選任の申立てができます。(民法952条)
ただしケースによっては多額の費用が必要になるため、不動産の管理は専門家に相談して進めるのがおすすめです。
相続放棄するかの判断基準
相続放棄のチャンスは一度きりであり、相続放棄するかどうかは慎重に判断することが重要です。判断基準の目安は、以下の通りです。
プラスの財産とマイナスの財産のバランスはどうか
被相続人の財産調査をして、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか確認しましょう。借金があってもプラスの財産の方が多ければ、プラスの財産から返済できるため相続してもデメリットは少ないでしょう。
明らかにマイナスの財産がプラスの財産を上回っている時は、相続放棄を検討するのがおすすめです。また財産調査は時間がかかるため、できるだけ早めに取りかかりましょう。
手元に残したい財産があるか
次のような物が相続財産の中に含まれる場合には、相続すべきか別の方法をとるか慎重に検討しましょう。
- 手元に残したい形見
- 現在居住している家
相続放棄した場合、プラスの財産も全て手放すことになります。最適な手段を選ぶために専門家に相談するのもおすすめです。
負債の額が明確か
被相続人の財産を全て把握するのは困難で、負債額が明確にわからないこともあります。負債額がはっきりしない場合には、限定承認を検討するのも1つの手段です。
限定承認であれば、万が一多額の負債が発覚しても相続するのはプラスの財産の限度に抑えられます。
限定承認できるか
限定承認は、多額の負債を相続することがなく無難な方法といえます。しかし先述した通り限定承認は、相続人全員が共同で申請しなければなりません。(民法923条)
さらに3か月という期限があり、短期間に手続きを済ませることは容易ではありません。
限定承認の手続きのために3か月ですべきことは、以下の通りです。
- 財産調査
- 相続人全員の同意
- 必要書類の収集
- 家庭裁判所で申請
単独で申請できる相続放棄と違って、相続人の内1人でも同意しない場合は限定承認できません。負債があり期限内に限定承認できない場合は、相続放棄を検討する必要があります。
相続放棄の手続き方法
手続きのおおまかな流れは次のとおりです。
必要費用
- 申述書に貼り付ける収入印紙800円
- 家庭裁判所へ郵送するときの郵便切手(横浜家庭裁判所へ送付する際は、84円切手5枚と10円切手5枚が必要です。)
- 戸籍謄本1通の手数料450円
相続放棄に必要となる費用は、自分で手続きする場合と司法書士や弁護士に依頼した場合で異なります。相続放棄にかかる費用の目安は、次の通りです。
司法書士、弁護士に依頼した場合は、実費のほかに報酬代などがかかります。また司法書士に依頼した場合と弁護士に依頼した場合では、請け負ってもらえる内容に違いがあります。
必要な書類
相続放棄に必要な書類は、誰が相続放棄するかで異なります。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
- 被相続人の戸籍謄本
- 除籍謄本
- 改正原戸籍
- 相続放棄する人の戸籍謄本
- 収入印紙800円分
- 切手500円程度
相続放棄申述書の書式は、裁判所のホームページから無料でダウンロードできます。必要書類は、被相続人の最後に住んでいた住所を管轄する家庭裁判所に提出します。
該当する横浜の家庭裁判所は、裁判所の一覧から調べられます。詳しくは、相続放棄する人ごとに必要な書類、相続放棄申述書の書き方について解説した記事をご覧ください。
除籍謄本とは、結婚、死亡などの理由で戸籍に誰も記載されていない状態の戸籍謄本です。改正原戸籍とは、戸籍簿が様式変更される前の戸籍です。
親御さんの本籍地が何度も移動していた場合は複数の役所に請求する必要があるため、収集に1ヶ月以上かかることも珍しくないのです。できるだけ早く収集に取りかかりましょう。
相続放棄申述書の提出
戸籍謄本等を集めたら、次におこなうことは相続放棄申述書の作成です。親御さんが最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所に提出してください。
下記の項目は記入する事項の一部です。
- あなたの本籍、住所、氏名、生年月日、職業、親御さんとの関係
- 親御さんの本籍、最後に住んでいた場所、名前、亡くなったときの職業、死亡日
- あなたが被相続人の死亡を知り、自分が相続人であることを知った日、放棄する理由、相続する土地建物のおよその面積、相続預貯金のおよその金額、相続負債のおよその金額
記入例は、こちらから参照が可能です。
相続放棄照会書の提出
申述書を提出すると相続放棄照会書が届きます。質問項目がいくつかあるので、回答してから送りましょう。
相続放棄申述受理通知書の受領
家庭裁判所が相続放棄を認めると、相続放棄申述受理通知書が送られてきます。この通知書は、家庭裁判所が相続放棄を認めたことを証明する文書です。再発行できないので、失くさないようにしてください。
もし失くした場合は、通知書を送った家庭裁判所に相続放棄受理申述証明書を発行してもらうよう申し立てが可能です。
自分で手続きが可能なケース
相続開始後3ヶ月以内におこなう場合
親御さんが亡くなった日から3ヶ月以内にあなたが自分の意思で申し立て、かつ法定単純承認事由がなければ申述は認められますから、あなたが他人の手を借りずひとりで手続きしても大丈夫でしょう。
ただ認められるか疑問であるならば、相続の専門家に手続きを依頼するのも手段のひとつです。
専門家に手続きを依頼すべきケース
この場合の専門家とは、相続手続きに詳しい弁護士と司法書士を指します。すべての弁護士、司法書士が相続手続きに精通しているわけではありません。
3ヶ月以内に相続放棄すべきか判断が困難なケース
相続放棄の前に相続財産を調査する必要があります。どのような種類の財産、債務がいくらあるのか把握していないと、相続放棄するか否か決められません。
財産調査に時間がかかり3ヶ月以内に相続放棄すべきか否かの判断が困難と予想される場合、専門家に調査を依頼すべきです。
3ヶ月超えそうな場合は家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることをおすすめします。(民法915条1項但し書き)伸長の手続きの必要費用と必要書類は、相続放棄申述のときと同じです。
相続開始後3ヶ月経過してからおこなう場合
例えば親御さんに借金などないと思い込んでいて3ヶ月過ぎてから、借金があったり他人の保証人になっていたことがわかるケースが該当します。
このようなケースでも、3ヶ月経過後の相続放棄申し立ては原則認められません。しかし、例外として次の3つの条件をすべて充たせば認められる場合もあります。
- 被相続人には相続財産など何も無いと相続人が信じこんだこと。
- 相続人に相続財産を調査することが非常にむずかしい事情があったこと
- 被相続人には相続財産が無いと相続人が信じたことについて誰もがが納得できる理由があること(最高裁判例昭和59年4月27日)
このような場合、上申書を家庭裁判所に提出する必要があります。上申書とは、裁判所に対して一定事項を報告するための法的文書です。
3ヶ月を過ぎて相続放棄を申請する場合や、相続人となったことを知ったのが遅かった場合には、その理由を上申書に記載し相続放棄を認めてもらうことになります。
書面で上記の3条件に該当することを説明し、その裏付け資料も添付しなければなりません。
「通常なら認められないが、このケースはしょうがない。認めよう」と家庭裁判所を説得できるように書く必要があります。このような資料の収集、裁判所を納得させる法的文書の記載は、相続の専門家でなければおそらく不可能でしょう。
相続放棄を弁護士にのみ依頼するケースとは
訴訟事件、非訟事件その他一般の法律事件に関する法律事務を、弁護士または弁護士法人でないものが報酬を得る目的で反復継続して取り扱うことはできません。(弁護士法72条)
弁護士に依頼するメリット
依頼者の代理人として手続きすべてを代行可能となります。弁護士は依頼者であるあなたの代理人として、相続放棄の手続きすべてを代行できます。
代理人である弁護士が権限内においてあなたのためにすることを示して行った意思表示は、あなたに対して直接に効力を生じます。(民法99条1項)
代理行為の一例は次のとおりです。
債権者との対応
債権者からの督促、問合せ等への対応をすべて弁護士に任せられ、ストレスから解放されます。
家庭裁判所への申述、連絡
相続放棄申述書の作成・提出も任せられます。
相続放棄が却下された場合の即時抗告
相続放棄が認められなかった場合、代理人である弁護士に通知が届き、弁護士が即時抗告します。このケースの即時抗告では、却下した家庭裁判所へ抗告状を提出しなければなりません。
却下通知を受けた日の翌日から2週間以内に申し立てする必要があり、高等裁判所が再審理します。ただし、再審理により相続放棄が認められるとは限らないのでご注意ください。
弁護士に依頼するデメリット
費用が司法書士より高めです。弁護士事務所によって費用は違います。場合によっては追加費用のかかるケースもございます。
熟慮期間を超えているケース
上申書を提出し期限を超えた事情を説明しなければならないため、追加費用が発生します。おおよその目安は1万円から5万円程度です。
相続財産調査を依頼するケース
おおよそ20万円から30万円です。案件によって調査にかかる手間暇が異なるため、調査費用に幅があります。
相続放棄を司法書士に依頼すべきケースとは
訴訟がからまない場合は、司法書士に依頼した方が弁護士よりも費用がかかりません。相続放棄の手続きを3ヶ月以内に実行するのであれば司法書士に相談することをお勧めします。
訴訟がからむケースは、原則として弁護士または弁護士法人しか取り扱いできません。しかし、訴額が140万円以下であれば認定司法書士でも受任できます。
司法書士に依頼するメリット
弁護士に比べ費用が概ね安価です。司法書士事務所によって費用は違います。
当事務所の場合、相続放棄まるごとパックをご案内しております。戸籍収集(3名まで)相続関係説明図作成も含み6万6,000円でご案内しております。
熟慮期間を超えているケースと相続財産調査を依頼するケースの費用は弁護士が取り扱う場合と同じです。
司法書士に依頼するデメリット
依頼者の代理行為はできてない点です。例えば相続放棄に関する訴訟、債権者との対応などはできません。
相続放棄において司法書士が取り扱い可能な業務は次のとおりです。
- 相続放棄申述書などの書類作成
- 戸籍謄本等の収集
- 相続放棄照会書に対する回答書の書き方についてのアドバイス
まとめ
相続放棄は、明らかにマイナスの財産がプラスの財産を上回っている場合に有効な手段です。ただし相続放棄には3か月という期限がある上に、原則として撤回はできません。
相続放棄するかどうかは、慎重な判断が必要です。相続すべきか判断に不安がある場合には、早めに専門家に相談するのがおすすめです。
この記事の監修者
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