この記事を要約すると
- 相続放棄の手続きは自分でもできる
- 相続放棄の手続きに必要な書類を収集するだけで1ヶ月以上かかるケースがあるため、相続放棄するかどうかは早めの判断が必要
- 相続放棄は自分でもできるが相続放棄をすべきか判断がつかない場合などはすぐに司法書士などの専門家に相談すべき
相続財産を調査した結果、借金・保証債務などのマイナスの財産が現金、預貯金などのプラスの財産を上回っている場合、借金返済義務から解放されるため相続放棄を検討されると思います。
今あなたは相続放棄の手続きをご自分でやろうとお考えかもしれません。
本記事で、相続放棄の手続き、自分で手続きをおこなえる場合、専門家に依頼すべき場合について解説します。
目次
相続放棄とは何か
相続放棄とは、亡くなった人の財産をプラスの財産、マイナスの財産を問わずすべて相続しないことです。
そのためには家庭裁判所に対し相続放棄をおこなう旨を申述し、受理されなければなりません。
相続放棄の申述が受理される条件
相続放棄の申述が受理されるためには、民法921条各号に規定する法定単純承認事由がないことが必要です。
- 相続財産の全部または一部の売却譲渡などをおこなう(1号)
- 相続開始を知ったときから3ヵ月が経過する(2号)
- 限定承認または相続放棄をしたあとに相続財産を隠す・こっそり使う・相続財産を財産目録に記載しない(3号)
相続放棄は3ヵ月以内にというのは、相続放棄してから3ヵ月を経過すると単純承認をしたとみなされ、相続放棄ができなくなるためです。
相続放棄のメリット・デメリット
次にメリット・デメリットをみてみましょう。
メリット
借金返済義務の消滅
相続を放棄することにより、あなたは初めから相続人とならなかったものとみなされます。(民法939条)
したがってマイナスの財産も相続しないため、借金を返済する義務はありません。
遺産分割のゴタゴタから抜けだせる
相続により親族の間でゴタゴタが生じたとしても、あなたは相続人ではないのでこのような争いとは無関係でいられます。
遺産分割協議、遺産分割手続きなどの面倒な手続きにも関わる必要はありません。
デメリット
プラスの財産の相続不可
あなたは当初から相続人ではなかったとみなされるため、プラスの財産もすべて相続できません。
あなたが住んでいる家の所有権者が親御さんだった場合、次順位の相続人がその家を相続するとあなたが追い出されるおそれもあります。
相続放棄の撤回は原則不可
相続放棄が受理された場合、熟慮期間内でも原則として撤回はできません。(民法919条1項)
*熟慮期間とは、相続人が自己のために相続開始があったことを知ったときからの3ヶ月間のことです。
ただし、相続放棄が受理される前であれば取り下げることは可能です。(家事事件手続法82条1項)
相続放棄が適しているケース
自分で相続放棄の手続きをするとき、まずは「相続放棄が最適な手段なのか」を検討することが大切です。
一般的に相続放棄が適しているのは次のようなケースです。
- プラスの財産よりマイナスの財産の方が多い場合
- 相続人間のトラブルを避けたい場合
- 特定の相続人が被相続人の事業を引き継ぐ場合
ひとつずつ見ていきましょう。
プラスの財産よりマイナスの財産の方が多い場合
相続財産が「明らかにマイナスの財産の方が多い」とはっきりわかっている場合は、相続放棄を検討した方が良いでしょう。
そして被相続人が誰かの連帯保証人になっている場合も、相続放棄を検討する必要があります。
被相続人の財産調査を入念に行い、プラスよりマイナスが上回ることが明らかな場合は、相続放棄を検討しましょう。
相続トラブルを避けたい場合
親族との関わりを避けるために相続放棄を検討するケースもあります。
- 遺産分割の揉めごとに関わりたくない
- 疎遠になっている親族と関わりたくない
相続財産をどう分けるかについて話し合う遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければなりません。
- 前妻・内縁の妻との間の子や認知した子などがいる
- 財産の中に不動産があり所有権などをめぐって争うことになる
- 同居・介護していた相続人がいることで相続分について争いが複雑化する
これらのケースのように親族との関わりにストレスを感じる場合には、相続放棄を検討しても良いでしょう。
特定の相続人が被相続人の事業を引き継ぐ場合
被相続人が会社を経営していて、相続人の中に経営を引き継ぐ人がいる場合です。
後継者となる人がすべての財産を相続できるよう、他の相続人全員が同意の上で相続放棄することがあります。これにより、事業に関わる財産を後継者以外の相続人が相続してしまうことでトラブルになることを避けられます。
限定承認が適しているケースもある
債務がある場合でも、残したい財産(自宅など)があるとき、相続放棄ではなく限定承認するという手段もあります。
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続することです。(民法922条)マイナスの財産のほうが多い場合でも、相続するのはプラスの財産の範囲内のみに抑えられます。
相続したい財産がある場合は、限定承認も検討しましょう。
注意すべき点は相続放棄が単独でできるのに対し、限定承認は相続人全員が合意して共同で手続きする必要があることです。
相続放棄に必要な書類・費用
自分で相続放棄を申し立てる際に必要な書類、費用について解説します。
必要費用
自分で相続放棄を申し立てるのにかかる費用は3,000円〜5,000円程です。
収入印紙(裁判所に支払う手数料) | 800円 |
連絡用郵便切手 | 500円程度(裁判所による) |
被相続人の住民票除票または戸籍附票 | 住民票除票:300円(自治体による) 戸籍附票:300円(自治体による) |
被相続人の戸籍謄本 | 450円 |
除籍謄本、改製原戸籍 | 750円 |
相続放棄する人の戸籍謄本 | 450円 |
必要書類
相続放棄申述書
相続放棄申述書とは、家庭裁判所に対し相続放棄を申し立てる際に提出する書類です。紙ベースの申述書は家庭裁判所で入手できます。
こちらからダウンロードもできます。
申述人の戸籍謄本
戸籍謄本とは、戸籍原本の内容すべてのコピーであり、「全部事項証明書」とも呼ばれます。原本はあなたの本籍地がおかれている役所で保管され、その戸籍に入っている全員の事項が記載されています。
たとえばご両親の名前、生年月日、続柄、出生地と出生の届出人、婚姻した旨、離婚した旨などです。
被相続人の住民票除票または戸籍の附票
本件での住民票除票とは、死亡により住民登録が除かれた親御さんの住民票です。
本件での戸籍の附票とは、親御さんの戸籍が作られてから死亡により除籍されるまでの住所異動の履歴を記録したものであり、戸籍原本と共に本籍地の市区町村で保管されています。
申述人が被相続人の配偶者または子の場合
被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍が必要になります。
なぜなら法定相続人をこれらの公的書類から明らかにし、だれが相続人であるか確定させなければならないからです。
除籍謄本とは、結婚、離婚、死亡などで戸籍に入っている人がすべていなくなった戸籍謄本のコピーです。改正原戸籍とは、戸籍法改正による戸籍の様式変更がおこなわれた際の様式変更前の戸籍です。
戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍を1つの役所で収集できれば非常に運がいいでしょう。
しかし結婚、転籍などで親御さんの本籍地が何度も移転を繰り返していた場合は、複数の役所に請求しなければならないため、収集に1ヶ月以上かかる場合もあります。
自分で行う際の手続き全体の流れ
相続放棄の手続きの流れは以下の通りです。
- 相続放棄申述書を作成する
- 家庭裁判所に必要書類一式を提出する
- 相続放棄照会書に回答して返送する
- 相続放棄申述受理通知書を受け取る
- 債権者や他の相続人に連絡する
相続放棄申述書の作成
相続放棄申述書の書式は、次のどちらかの方法で入手できます。
全国の家庭裁判所の窓口でもらう
記載する項目は以下のとおりです。
- 申述人の本籍、住所、氏名、生年月日、職業、被相続人との関係
- 被相続人の本籍、最後の住所、氏名、死亡当時の職業、死亡日
- 相続開始を知った日、放棄の理由、相続財産の概略
家庭裁判所に必要書類一式を提出する
戸籍謄本などの添付書類や相続放棄申述書が揃ったら、親御さんの最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出しましょう。
相続放棄照会書を回答して返送
相続放棄申述書を家庭裁判所に提出すると、おおむね10日後に相続放棄照会書が送られてきます。
相続放棄照会書とは、相続放棄の申述が申述人であるあなたの意思によるものか否かを家庭裁判所が確認するための書類です。
質問項目がいくつかあるので、記入して返送してください。
相続放棄申述受理通知書を受け取る
相続放棄照会書を返送して相続放棄の申請が認められると、相続放棄申述受理通知書が送付されます。
この通知書は相続放棄が認められたことの証明書です。相続放棄受理通知書は再発行できないので、なくさないでください。
もし紛失した場合は、受理をした家庭裁判所に相続放棄受理証明書を申請できます。その時150円の収入印紙が必要です。
相続放棄が受理された後で注意すること
相続放棄が受理された後に注意すべきことを確認しておきましょう。
通知書のコピーまたは証明書を債権者に送付
通知書が届けば相続放棄の手続きは終了です。ただこの後、通知書のコピーまたは証明書を借金の債権者に送付してください。
なぜなら送付によりはじめて債権者は相続放棄の事実を知り、ほとんどのケースで借金を督促しなくなるからです。
相続放棄した後の財産管理責任
相続放棄してもあなたに相続財産の管理責任が発生する場合があります。
たとえば次のようなケースです。
あなたの相続放棄により他人が相続人になったとしましょう。その人が相続財産の管理を始められるまでは、あなたが相続財産を管理しなければなりません。(民法940条1項)
相続放棄手続きを自分でできるのか
ここまで相続放棄の手続きについてみてきました。さて、あなたは次のケースでこれらの手続きをおこなえますか。
相続開始後3ヶ月以内におこなうケース
親御さんが亡くなった日から3ヶ月以内にあなたが自分の意思で申し立て、かつ法定単純承認事由がなければ、申し立ては受理されますから自分でおこなってもよいでしょう。
ただ受理されるか否か不安であれば、相続の専門家に手続きを依頼するのも一つの手段ですね。
3ヶ月以内に相続放棄すべきか判断が困難なケース
相続放棄をおこなう前に相続財産を調査する必要があります。どのような財産、債務がいくらあるのか把握できなければ、相続放棄の検討すらできません。
財産調査に時間がかかり3ヶ月以内に相続放棄すべきか否かの判断が困難な場合、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることをおすすめします。(民法915条1項但書)
相続開始後3ヶ月を過ぎてからおこなう場合
親御さんに借金などないと思い込み3ヶ月経過してから、借金があったり他人の保証人になっていたことがわかるケースがあります。
このようなケースでも、3ヶ月経過後の相続放棄申し立ては通常認められません。
しかし次の3つの条件をすべて充たせば認められる場合もあります。
- 親御さんには相続財産など何も無いと相続人のあなたが信じたこと。
- あなたに相続財産を調査することが非常にむずかしい事情があること
- 親御さんには相続財産など無いとあなたが信じたことについて誰もが納得する理由があること
自分で手続きする時の注意点
専門家に依頼せず自分で相続放棄を申し立てる場合、注意すべき点は以下の4点です。
- 一度却下されると再申請できない
- 相続放棄は撤回できない
- 相続放棄しても不動産の管理をする義務がある
- 事前に次の相続順位の人に連絡しておく
ひとつずつ見ていきましょう。
一度却下されると再申請できない
相続放棄は書類の不備などで一度却下された場合、再申請は認められていません。
却下されたあと2週間以内に高等裁判所に即時抗告し、もう一度審理してもらうこと自体は可能ですが、ここで結論を覆すのは相当難しいと言えます。
相続放棄を申し立てるチャンスは一度きりと考え、慎重に進めることが重要です。
相続放棄は撤回できない
相続放棄は一度認められると、撤回することはできません。(民法919条)
例外的に次のような経緯でされた相続放棄は取り消しが可能です。(民法919条第2項)
- 本人の意思でなく脅された、または騙された場合(民法96条)
- 未成年や成年被後見人など法律行為に制限がある人が単独で手続きした場合(民法5条、9条、13条)
相続放棄しても不動産の管理をする義務がある
相続放棄しても相続財産の不動産の管理義務はなくなりません。
財産の中に不動産がある場合、相続放棄が認められたあとでも次の相続人が管理できるようになるまでは、その不動産の管理をする義務があります。(民法940条1項)
例えば、老朽化した家屋の手入れや雑草の害虫駆除などをして、近隣住民に迷惑がかからないよう注意しなければなりません。
相続人全員が相続放棄したときは、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てる必要があります。(民法952条)
事前に次の相続順位の人に連絡しておく
借金があることで相続放棄した場合、自分の次に相続人となる人に対して相続放棄が認められた旨を速やかに連絡する必要があります。
裁判所から次順位の相続人へ通知されるわけではないため、相続放棄した人が自ら手紙や電話で通知しなければなりません。
自分でやるよりも専門家に依頼したほうがいい場合
次のケースは専門家に依頼すべきです。
- 上記のように親御さんに借金がないと思い込んで3ヶ月経過したケース
- 長年の間親御さんとは音信不通で、最近死亡したことを知ったケース
なぜならこれらのケースで家庭裁判所に相続放棄を認めさせることは、専門家でなければ非常にむずかしいからです。
上記の場合、上申書を家庭裁判所に提出しなければなりません。上申書とは、裁判所に対して一定事項を報告するために提出する文書です。
3ヶ月を経過して相続放棄する場合や、相続人となったことを知ったのが遅かった場合には、その事情について上申書で記載することで相続放棄を認めてもらうことになります。
書面で上記の3条件に関する具体的事実を述べ、その裏付け資料も添付しなければなりません。最終的に相続放棄はやむを得ないと家庭裁判所を納得させるように書く必要があります。
このような資料の収集、説得力のある法的文書の記載は、相続の専門家でなければ非常に困難でしょう。このようなむずかしいケースは相続のあいりんにお任せください。
まとめ
相続放棄とはなにか、その手続きの流れ、自分でおこなえるケース、専門家に依頼すべきケースなどを説明してきました。
戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍を集めるだけで1ヶ月以上かかる場合もあります。相続開始を知ってから3ヶ月以内にこれらを収集し、かつ相続放棄申述書を提出しなければなりません。
万が一3ヶ月の熟慮期間内に提出できなければ、相続放棄ができなくなるかもしれません。あなただけで期限内に手続きを完了できれば、それがベストです。
しかし3ヶ月以内におこなうことがむずかしいと思ったら、できるだけ早く相続の専門家に相談してください。きっと親身になってあなたをサポートしてくれるでしょう。
相続のあいりんには司法書士などの専門家が在籍しておりますので、相続放棄の相談もお受けしています。
お悩みの方も無料で相談できるため、ご安心ください。相続の専門家があなたをバックアップします。
この記事の監修者
遺産相続の無料相談
横浜市の相続・遺言に関するご相談ならあいりん司法書士事務所へ。
相続のご相談は完全無料です。【横浜駅徒歩4分】 横浜市内で財産・不動産の相続・相続放棄・終活にお悩みの方はお気軽にご相談ください。
横浜での相続に精通したプロチームが、相続法務から税務にいたるまでお客様をフルサポートします。