相続放棄の手続きにかかる費用は、それぞれの場合で異なります。
・自分でする
・司法書士に依頼する
・弁護士に依頼する
自分で手続きする場合は、戸籍の取得費用と裁判所に支払う手数料のみで足ります。
司法書士や弁護士に依頼すると、それらの実費に加えて報酬を支払わなければなりません。
「なるべく費用はおさえたいけれど自分ですべて行うのは不安」
「専門家に支払う報酬の相場がわからない」
という人も多いでしょう。
この記事では、相続放棄にかかる費用を3つのケース別に解説し、専門家に依頼するメリット、自分で手続きするか専門家に依頼するか判別の目安についてくわしく解説します。
相続放棄の手続きにかかる費用
相続放棄にかかる費用の目安は次の通りです。
自分で手続き |
3千〜5千円 |
司法書士に依頼 |
3万〜5万円 |
弁護士に依頼 |
5万〜10万 |
自分ですべて行うとかなり節約できます。
専門家に依頼した場合は、実費に加えて報酬や交通費がかかり高くなります。
報酬額の設定に決まりはなく自由に決められるため、事務所によって報酬額はまちまちです。
ではケースごとに見ていきます。
自分で手続きした場合の費用
自分で申し立てをする際にかかる費用は、書類を取得する費用と裁判所に支払う手数料で合計3千〜5千円と、最も安く済みます。
書類 |
費用 |
相続放棄申述書に貼付する収入印紙 |
800円 |
連絡用の郵便切手 |
500円程度(裁判所ごとで異なる) |
被相続人の住民票除票または戸籍附票 |
住民票除票:300円(自治体による) 戸籍附票:300円(自治体による) |
被相続人の戸籍謄本 |
450円 |
被相続人の除籍謄本、改製原戸籍 |
750円 |
相続放棄する人の戸籍謄本 |
450円 |
被相続人の親・祖父母、兄弟姉妹、甥・姪が相続放棄する際は、集める戸籍が多くなるため、その分費用も高くなります。
司法書士に依頼した場合の費用
費用の目安は、3万〜5万円です。
基本的に相続放棄は、被相続人が亡くなってから3か月以内に申し立てなければなりません。(民法915条)
3か月を過ぎてから申し立てる場合は、必要な書類が増えるため支払う報酬も高くなります。
依頼したタイミング別の費用の目安
3か月以内 |
3万〜4万円 |
3か月を過ぎたとき |
4万〜5万円 |
相続放棄期限である3か月以内の場合
相続放棄の期限である3か月以内に依頼した場合、費用の目安は3万〜4万円です。
内訳は次の通りです。
相談料 |
0〜5千円/60分 |
代理手数料 |
2万〜3万円 |
書類取得などにかかる実費 |
3千〜5千円 |
合計 |
3万〜4万円 |
複数人でまとめて依頼すると減額される場合もあります。
相続放棄期限である3か月を過ぎた場合
相続放棄の期限を過ぎて依頼するときの費用の目安は、4万〜5万円です。
期限内の依頼より費用が1万〜2万円高くなる点に注意です。
相談料 |
0〜5千円/60分 |
代理手数料 |
3万〜4万円 |
書類取得などにかかる実費 |
3千〜5千円 |
合計 |
4万〜5万円 |
弁護士に依頼した場合の費用
弁護士に依頼した場合の費用は司法書士よりも高く、5万〜10万円です。
相続放棄では、成功報酬が不要な場合が多いでしょう。
相談料 |
0〜1万円/60分 |
代理手数料 |
5万〜10万円 |
書類取得などにかかる実費 |
3千〜5千円 |
合計 |
5万〜10万円 |
相続放棄の費用が通常より高くなるケース
通常の費用に加えて、追加費用がかかるのは次のような場合です。
・相続放棄の期限を過ぎている場合
・財産調査も依頼する場合
・相続財産管理人を選任する場合
相続放棄の期限を過ぎている場合
期限を過ぎた場合の追加費用の目安は、1万〜3万円です。
期限を過ぎて申し立てる場合には、上申書(事情説明書)を作成し期限内に相続放棄できなかった理由を記して家庭裁判所に提出しなければなりません。
この上申書の作成に、1万〜3万円かかります。
ただし上申書を提出すれば必ず相続放棄が認められるというわけではありません。
財産調査も依頼する場合
財産調査する場合の追加費用の目安は、10万〜30万です。
財産調査とは、被相続人が遺した財産がどれくらいあるのか、預貯金、不動産、借金の有無などを調査することです。
財産が把握できないと、あとになって負債や資産が発覚し次のような事態が発生する恐れがあります。
・多額の負債が発覚しすべて相続しなければならない
・資産が見つかったことによる相続税の申告漏れ
相続放棄の期限を過ぎてから負債が見つかると、取り返しのつかない事態にもなりえます。
費用は財産調査を依頼できる行政書士、司法書士、弁護士でそれぞれ異なります。
相続財産管理人を選任する場合
相続財産管理人の選任を申し立てる費用の目安は、10万円です。
相続財産管理人とは、相続放棄した相続人から引き継いで相続財産の管理をする人で家庭裁判所が選任します。
本来相続人は相続放棄したあと、新たに相続人となる人が相続財産の管理を始めるまで、その財産の管理(老朽化した空き家の管理など)をする義務があります。(民法940条)
相続人全員が相続放棄した後、財産の管理義務から解放されたいというときは、相続財産管理人の選任を申し立てなければなりません。
相続放棄の手続き費用を安くする方法
相続放棄の費用が高くて専門家に依頼するのが難しいという方には、法テラス(日本司法支援センター)で次のような制度が用意されています。
・無料の法律相談
・費用の立て替え
法テラスは国が設立した法律トラブルをサポートする組織で、収入などについて一定の条件を満たした人が利用できます。
司法書士や弁護士に電話・面談(30分×3回まで)で無料の法律相談ができ、専門家に支払う費用を立て替えてもらい分割払いにできます。
分割払いにできれば、月々の生活費を圧迫せずに済みます。
専門家に依頼するメリット
専門家に依頼すると具体的にどんなメリットがあるのか、次の3点について解説します。
迅速かつ正確に手続きが済む
最短時間でしかも正確に手続きが完了します。
相続放棄は3か月という期限内で必要書類を集めたり申述書を作成したりしなければなりません。
経験のない人が手続きする場合、書類を集めるのに時間がかかり期限を過ぎてしまうという危険もあります。
専門家に依頼すれば期限内に確実に完了でき、場合によっては期限を過ぎてしまっても相続放棄できる可能性があります。
相続放棄すべきか相談できる
相続放棄が最も適切な方法なのか判断に迷っている場合には、専門家に相談することでより適切な手段を提案してもらえます。
例えば、相続財産に債務がある場合でも状況によっては限定承認の方が適切なケースもあります。
相続放棄は一度申し立てると、撤回することはできません。(民法919条)
豊富な法律知識と経験のある専門家に、現在の状況を伝えた上でどういった手段が最適なのかアドバイスをもらえます。
時間や労力を節約できる
手続きにかかる時間や労力を大幅に節約できます。
戸籍を集めるには平日の日中に時間を割いて市町村役場に出向く必要があります。
遠方の市町村役場に戸籍の交付を依頼する場合は、期限内に手続きが完了するよう郵送にかかる時間などを考えなければなりません。
専門家に依頼すればこれらの面倒な作業時間や労力を大幅に省けます。
相続財産に債務があり債権者対応しなければならないケースでは、弁護士に手続き依頼することでそういったストレスからも解放されます。
専門家に依頼するデメリット
専門家に依頼するデメリットは、実費以外に報酬を支払うコストがかかることです。
どの事務所に依頼するかによっても報酬が異なるので、比較して検討する手間がかかります。
弁護士と司法書士の業務の違い
相続放棄の手続きをする権限があるのは、弁護士と司法書士です。
弁護士と司法書士では与えられた権限が違うため、次のように業務内容も異なります。
弁護士 |
司法書士 |
|
手続きの代理権 |
あり |
なし |
申述書・上申書の作成 |
可 |
可 |
戸籍の収集 |
可 |
可 |
裁判所への提出 |
可 |
可 |
裁判所とのやり取り |
可 |
不可 |
照会書作成 |
可 |
文案の作成のみ可(申述人の自署が必要) |
トラブル介入 |
可 |
不可 |
債権者対応 |
可 |
不可 |
弁護士には手続きの代理権があるのに対し、司法書士に代理権はありません。
したがって弁護士は申述人に代わって相続放棄に関するすべての行為をできますが、司法書士には制限があります。
弁護士にできて司法書士にできない業務は次の点です。
・照会書の作成
・裁判所と直接のやり取り
・親族間などでもめている場合の介入
・債権者への対応
照会書は司法書士が代理で記入することはできませんが、文案を提示するなどのサポートは可能です。
司法書士の方が費用は安いため、費用をおさえたい場合は司法書士に依頼するのがおすすめです。
(司法書士法3条、弁護士法72条)
自分でするか専門家に依頼するか
自分で手続きをするか専門家(司法書士・弁護士)に依頼するかの判断が難しいという方に向けて、判断の目安について解説します。
自分で手続きできるケース
自分で手続きすることを検討してもいいケースは次の場合です。
・集める戸籍の数が少ない
・平日に時間を割ける
・相続放棄の期限まで十分時間がある
集める戸籍の数が少なく相続関係が複雑でない場合は、自分で手続きすることを考えても良いでしょう。
司法書士に依頼するのがおすすめなケース
司法書士へ依頼するのがおすすめなのは次のケースです。
・専門家に依頼したいができる限り費用をおさえたい
・集める戸籍が多く相続関係が複雑
・親族間でもめごとやトラブルがない
・相続財産に債務がない
・期限が近い、またはすでに期限を過ぎている
・戸籍の収集、申述書・上申書を作成してほしい
相続放棄する人が被相続人の兄弟姉妹、甥・姪である場合は集めるべき戸籍の量も多く複雑になるため、専門家に依頼するのが望ましいでしょう。
専門家の知識を借りたいけれど費用をなるべくおさえたいという方には司法書士への依頼がおすすめです。
弁護士に依頼するのがおすすめなケース
弁護士へ依頼するのがおすすめなのは次のケースです。
・債権者対応をすべて任せたい
・相続について親族でもめている
・相続についてすべて任せたい
・期限が近い、またはすでに期限を過ぎている
相続財産に債務があり債権者対応を迫られているケース、親族間でもめているケースでは、トラブル介入の権限がある弁護士に依頼するのが最適です。
まとめ
相続放棄の手続きにかかる費用について解説しました。
費用の目安は次の通りです。
自分で手続き |
3千〜5千円 |
司法書士に依頼 |
3万〜5万円 |
弁護士に依頼 |
5万〜10万円 |
自分で手続きすると専門家に依頼した場合より10分の1の費用でおさまることもあります。
ただ費用を最小限におさえるために無理に自分で手続きをして、期限に間に合わず相続放棄できなくなるという恐れもあります。
・期限の3か月を過ぎている
・相続関係が複雑で集める戸籍が多い
・もめごとやトラブルがある
・債権者対応が必要
これらのケースや自分で手続きするのに不安がある場合は、一度専門家に相談してみることをおすすめします。
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