遺言信託と呼ばれるとき、2つの意味があります。
1つは銀行が遺言のサポートをするサービスパックとしての遺言信託、もう1つは信託法で民事信託を遺言で行うものです。
本記事では前者の銀行が行う遺言信託について解説します。
「遺言信託は司法書士や行政書士に依頼するのと何が違うのだろう?」
このようなお悩みはありませんか?
遺言信託がぴったりなケースがあるのですが、すべての相続に遺言信託がお勧めではありません。
遺言信託のメリット、デメリットをよく理解して利用することが大切です。
この記事を読めば遺言信託を利用すべきかどうかを判断できるようになります。
遺言信託とは
信託銀行などが遺言書の作成についての相談、遺言書の保管から遺言の執行までを実施してくれる制度が遺言信託です。
遺言には法律に関する専門的な知識が必要であり、どうしても煩雑な作業がつきまといます。
・遺言書の作り方が分からない
・遺言の内容をどのようにしたら良いか悩む
・不安なため遺言書を保管して欲しい
・遺言書の通りに相続されるか心配
このようなご不安やお悩みをお持ちの方にとって遺言信託はおススメの制度といえます。
付き合いの長い信頼できる信託銀行をお持ちの方は一度相談してみてはいかがでしょうか?
遺言信託では遺言執行者を信託銀行に指定し、公正証書遺言を作成することになります。
遺言執行者とは、遺言書通りに相続が行われるように必要な手続きをする人のことを指します。
遺言執行者を選ぶことで遺言が円滑に進みやすくなりますが、遺言執行者に指定された人には負担がかかります。
信託銀行が遺言執行者を担ってもらえれば、親族に負担をかけることなく円滑な相続を実現できます。
公正証書遺言とは、自分で書く自筆証書遺言とは異なり、公証役場にて証人立ち合いの元に公証人が作成する遺言です。
遺言内容を確実に実行でき、無効になりにくい遺言書の方式です。
このように、遺言信託を利用することで安全かつ安心して遺言を残せます。
遺言信託の一般的な流れ
遺言信託の一般的な流れは以下の通りです。
①遺言書作成の相談
遺言書の作成について相談することができます。
多くの場合銀行員ではなく、司法書士などが代行して相談を受けてくれます。
②遺言書の作成
遺言書は公正役場にて作成します。
公正証書遺言の作成においては、証人が必要です。
証人には利害関係のない知人の他、司法書士、司法書士事務所のスタッフなどに依頼するケースもあります。
また、遺言執行者として信託銀行などを指定します。
③遺言信託の契約
信託銀行などに遺言信託を申し込む際には、以下の書類と手続きが必要です。
・遺言書正本
・不動産登記事項証明書
・相続財産明細
・戸籍謄本
・有価証券、預貯金その他財産に関する資料
・印鑑証明書
・その他
同時に、遺言者が亡くなった場合に信託銀行に連絡する役割を担う死亡通知人を指定します。
これで遺言信託の準備は完了です。
④死亡通知人から死亡の連絡
遺言者が亡くなった後、死亡通知人が遺言信託の契約者が死亡したことを信託銀行などに連絡します。
この通知を受けて、遺言執行者である信託銀行などが相続の準備を進めていきます。
⑤遺言書の開示、遺産・債務調査、財産目録の作成
遺言執行者である信託銀行などが相続を進めるため、遺言者の遺産・債務を調査します。
調査結果に基づいて財産目録を作成します。
⑥相続税の申告や納付などの手続きのサポート
相続人は相続税の申告や納付をします。
煩雑な手続きについて信託銀行などがサポートしてくれます。
必要に応じて、信託銀行などから税理士や弁護士、司法書士などの紹介を受けることも出来ます。
⑦遺言書の内容を実行
遺言書に基づいて遺産の分配、処分などが行われます。
遺言が完了すると相続人に相続完了の報告が行われます。
これで遺言信託は終了です。
遺言信託5つのメリット
遺言書を作成する場合、どのように記載して良いか悩むことがあります。
そんな時に頼りになる相談先の1つが弁護士や司法書士などの法律の専門家です。
ここでは遺言信託のメリットを5つご紹介します。
専門家にお願いできるという安心感がある
遺言書は専門的な知識なく記載しても無効となってしまう恐れがあります。
無効になると遺言の効力がなくなるため、専門知識なく作成するとトラブルになる可能性があります。
確実に遺言を実行するためには、弁護士や司法書士などの法律の専門家に相談することが必要です。
遺言信託において相談先は信託銀行などですが、専門のスタッフが対応してくれるため安心できます。
個人の弁護士や司法書士などの専門家に依頼することもできますが、その専門家が亡くなった場合遺言執行者になれないリスクがあります。
有効な遺言書を作成できる
どのようにすれば希望する相続ができるのか、個人で判断ができないケースがあります。
相続割合や遺留分などを考慮しておく必要があり、専門的な知識が欠かせません。
遺言書の通り確実に相続するためには公正証書遺言がお勧めです。
公正証書遺言を作成するにしても、やはり弁護士や司法書士に相談しないと適切な遺言書は作成できないでしょう。
公正証書遺言を手配するためには公証人を用意するなど準備が必要なのですが、遺言信託では公証人も依頼できます。
相続に関するトラブルを抑止できる
偏った内容の自筆証書遺言があるような場合、
「身内のだれかが無理やり書かせたんじゃないか?」
「本当に遺言の当時にこんな判断ができたのか?」
と不利に扱われた相続人が感じることもあります。
相続人の誰かが遺言書に不満がある場合、家庭裁判所へ遺言無効の調停を申し立てる、あるいは遺言内容の有効無効を争う裁判を起こされることもあります。
そのような相続に関するトラブルを避けるために遺言信託は有効です。
法的に定められている相続割合や遺留分を考慮し、正しい形式で専門家の立ち合いの元作成された遺言書であれば相続人も納得します。
遺言書通りの相続をサポートしてくれる
遺言信託では信託銀行などが遺言執行者として遺言の内容を実現してくれます。
遺言執行者は財産調査や名義変更などの手間のかかる手続きもサポートしてくれるため、結果的に相続人の負担の軽減にもつながります。
遺言執行者は誰でも依頼することはできますが、法律に詳しくない相続人に依頼すると負担が大きくなります。
面倒で複雑な遺言を作成しても、相続人が忙しくて実行できないこともあります。
相続人に負担をかけず、自分の遺言を確実に実行してもらうには、遺言信託は効果的といえるでしょう。
財産や相続人の変化に合わせた資産活用や節税対策を提案してくれる
金融機関である信託銀行などから資産の活用方法や節税対策についてアドバイスを受けられます。
生命保険はみなし相続財産とされ、相続税の課税財産になり得ます。
生命保険の非課税枠を利用することで節税効果が期待できますが、内容は複雑であり専門家のアドバイスを受けることが必要です。
信託銀行には保険の専門家が在籍しているため、安心して相談することができます。
生前贈与による相続税の節税対策にも様々な方法があります。
1月1日から12月31日までの1年間において110万円までの贈与は非課税となり贈与税がかからずに財産の移転が可能です。
この1年ごとの贈与のことを暦年贈与と呼びます。
他にも、住宅取得資金や教育費としての贈与などがあり、最適な贈与の方法についても相談することができます。
また、節税対策の投資商品を紹介してくれることもあります。
遺言信託のデメリット
遺言信託には弁護士や司法書士にはできないようなメリットがあることがわかりました。
ただし、当然ですが遺言信託にもデメリットがあります。
メリットだけでなく、デメリットも考慮したうえで遺言信託を利用するかどうか判断しましょう。
費用が高い
デメリットとして一番目につくのが費用です。
司法書士事務所などに依頼するより高額になる金融機関が多いでしょう。
参考として、大手金融機関の遺言信託の費用を載せておきます。
契約時手数料 |
年間保管料 |
執行時 |
グループ会社預り資産 | ||
5,000万円以下の部分 |
1億円以下の部分 |
||||
A銀行 |
330,000円万 |
6,600円 |
2.20% |
1.65% |
0.33% |
B銀行 |
220,000円万 |
6,600円 |
2.20% |
1.65% |
0.22% |
C銀行 |
330,000円万 |
5,500円 |
1.80% |
0.9% |
0.30% |
D銀行 |
330,000円万 |
6,600円 |
1.87% |
0.33% |
これらの金額を計算すると、最低でも手数料で110万円はかかります。
さらに、戸籍謄本などの取得にかかる費用、登記や相続税にかかる税金や司法書士、税理士への報酬などが別途かかります。
希望通りの相続ができないことがある
弁護士や司法書士にお願いする場合と比べると、遺言信託では相続に関して
揉め事が起こりそうな遺言は断られるケースが多いようです。
例えば、遺留分を侵害して特定の法定相続人に多くの財産を相続しようとするケースでは、他の相続人が遺留分侵害額請求を起こすことが想定されます。
他にも、法定相続人以外に遺贈する場合も同様です。
金融機関としては法的な対応ができかねることもあってか、このような相続に関しては消極的な姿勢の金融機関が多いと聞きます。
金融機関なため専門的な実務はできない
金融機関が提携している司法書士や税理士に委託してくれますが、別途費用が発生します。
発生した費用も支払う必要があるため、遺言信託は高額になりやすいともいえます。
金融機関はあくまで相談にのることしかできません。
法律上、登記に関する手続きは司法書士しかできませんし、納税申告は税理士しかできません。
これらの業務を銀行が代行することはできないため、別途費用が発生します。
それぞれのメリット、デメリットを加味して判断しましょう。
身分行為の執行はできない
遺言書では以下の身分行為が認められています。
・婚姻外の子どもの認知
・未成年者に対する後見人の指定
・相続人の廃除
生前の関係性から、遺言書で特定の人物を相続人から排除するなどの意思表示は可能です。
ただし、信託銀行などは法律によって財産に関する遺言の執行のみしか認められていません。
よって、子どもの認知や後見人の指定、相続人の廃除などの身分行為の遺言執行者は受けません。
同様に、相続人の廃除の意思表示に基づく家庭裁判所への申立てもできません。
これらを遺言したい場合は、親族や弁護士に遺言執行を依頼する必要があります。
遺言信託を活用した方が良い人
ここまでのメリット、デメリットをふまえて
遺言信託を活用した方が良い人をご紹介します。
財産規模が大きい・金融資産の預入先が分散しすぎている場合
財産規模が大きく、複数の金融資産を保有している方には遺言信託がお勧めです。
遺言信託を利用することで財産調査や相続税の計算など相続に関する様々な負担を大幅に軽減できます。
遺言信託では公正証書遺言を利用するため、遺言通りに相続できる可能性が高いでしょう。
財産規模が大きくなると相続税も高額となります。
少しでも節税対策を施し、相続人に多くの財産を贈与するためには生前から準備が必要です。
遺言信託を利用すればこれらの悩みに生前から対応し、相続人の負担なく相続を終えることが可能です。
遺言信託は決して安くはありませんが、億を超えるような財産を保有している場合はメリットが多く感じられるでしょう。
家族構成がシンプルで争いもない
上述したように、相続に関する争いが生じると信託銀行などは対応できません。
相続に関するトラブルが生じる可能性が少ないケースの代表がシンプルな家族構成の場合です。
配偶者と子どものみなど、相続人が少ない場合はトラブルが生じることも少ないため、遺言信託を利用しやすいといえるでしょう。
まとめ
遺言信託を利用することのメリット、デメリットについて記載しました。
多くのメリットがある一方、場合によっては弁護士や司法書士、行政書士などの士業に依頼した方がよいこともあります。
特に、信託銀行のサービスである遺言信託制度を利用しない、通常の公正証書遺言の作成に関しては、士業への依頼を考慮した方がいいでしょう。
大切な財産を希望通りに相続するためには生前から行動することが必要です。
一度専門家に相談してみましょう。
あいりん行政書士法人の紹介
あいりん行政書士法人は累計800件を超える受託実績を誇る相続の専門家です。
相続に関するすべてのお悩みに親身にご対応します。
まずは無料相談であなたのお悩みをお聞かせください。
Webからのお申込はこちらです。
関連記事