遺言執行人とは?役割や選び方・必要なケースを解説

故人が自分の思いを伝えた最後の言葉が遺言です。故人の意見を尊重するためにも、遺言は記載通りに実行したいものです。

しかし、実際には遺言通りに相続が進まないケースがあります。

 

故人の思いを実現するためには遺言執行者を選定しておくことが重要です。この記事を読めば、なぜ遺言執行者が必要なのか、遺言執行者が具体的に何をするのかを理解することができます。

 

遺言執行者についてきちんと理解したうえで選任しましょう。

 

遺言執行者とは?

 

遺言執行者は遺言執行人とも呼ばれます。2019年までは「相続人の代理人」と呼ばれていました。

遺言執行者は一定の権限を持って相続が遺言書通りに実行されるように働きます。

 

相続は法律や税金など専門的な知識がないと難しいため、話が進まないことがあります。遺言執行者は相続人の代表として単独で動くことができるため相続が円滑に進みます。

 

遺言執行者には未成年や破産者以外はだれでもなることができます。

相続人でも知人でも構いませんが、重要な立場ですので事前にきちんと伝えておくと良いでしょう。

 

遺言執行者は相続に関する様々な手続きを行う必要があるため、親族以外で選任するのであれば、できれば法律に詳しい弁護士や司法書士が適任です。

 

まずは、遺言執行者を選ぶことにはメリット・デメリットがあります。きちんと理解しておきましょう。

 

遺言執行者を選任するメリット・デメリット

 

遺産相続で親族関係が崩れることは防ぎたいものです。

遺言執行者を選任すれば相続をスムーズに運ぶことができます。

ただし、メリットばかりでなくデメリットにも目を向けて遺言執行者を選びましょう。

 

メリット

・相続手続きがスムーズに行われる

遺言執行者を選定する最大の理由は相続をスムーズに済ませることです。

相続がスムーズにいかない理由は様々ですが、相続をスムーズにするための権限が遺言執行者に与えられています。

 

”遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。(民法第1012条1項)”

 

引用元:三菱UFJ信託銀行「遺言執行者の役割」

 

遺言執行者になった者はすべての相続人に遺言執行者になったことを通知する義務があります。

 

その後は相続財産の名義変更手続きを行ったり、子の認知や相続人の廃除の手続きを行う権利があります。

権限が多いと同時に義務や責任もついて回ります。

 

相続人が自分で不動産登記の申請や銀行の手続き等をする必要がなくなるので、相続人の方の負担軽減にもつながります。

 

・他の相続人が独断で遺産を処分できなくなる

相続財産は相続人全員の共有財産です。勝手に遺産を使ったり処分してはいけません。

しかし、相続財産の全貌を知らなかったり相続手続きが長引いてしまうと、このようなトラブルが生じることがあります。

 

遺言執行者を決めておけば財産目録を作成し、スムーズに遺産相続が行われるため、このような相続人の独断によるトラブルを未然に防ぐことができる可能性があります。

 

分割前の相続財産を保全し、遺言を正確に実現するために遺言執行者を決めることは役に立ちます。

 

・遺言執行者にしかできないことができるようになる

2019年の民法改正によって遺言執行者の権限が強化されました。

 

”「相続人は遺言執行者の行為を妨害してはならない」”(民法1013条)

 

とされ、妨害した場合は無効となります。

 

遺言執行者には民法によって以下のような権限が与えられます。

・財産管理

・遺産分割

・遺言書の検認

・遺贈

・寄付

・相続に伴う各種名義変更

・預貯金の払い戻しと相続人や受遺者への交付

・子どもの認知

・相続人の廃除やその取り消し

 

詳細は後述しますが、特に重要なのが子どもの認知と相続人の廃除・取り消しです。

これらは遺言執行者にしかできない権限になるため、必ず遺言執行者を選任する必要があります。

 

デメリット

・知識が乏しい人には大きな負担となる

メリットのところでも述べましたが、遺言執行者にはたくさんの権限が与えられます。

言い方を変えれば、やることがたくさんあるということです。相続の知識に乏しい方が遺言執行者に選定された場合は負担が大きくなる可能性があります。

 

遺言執行者が荷が重いと感じる場合は依頼を断ることも可能です。

断るには特別な理由は必要ありません。

ただし、一度遺言執行者に選定されてから辞任する場合には、家庭裁判所に正当な事由があることが認められる必要があります。

 

正当な事由としては病気による長期療養や長期の出張、多忙な業務などが挙げられます。

難しくて自分にはできない、などの理由では正当な事由とは認められない可能性があります。

 

依頼を受けた時点でよく考えて承諾するかどうかを決めましょう。

 

・トラブルのきっかけとなる

遺言執行者には大きな権限が与えられるだけに、様々なトラブルが発生する可能性があります。

遺言執行者が財産の大半を受け取る遺言があった場合は、他の相続人から反感を買う可能性があります。

 

特定の人物に多くの遺産を渡したい場合などは、トラブルを回避するために司法書士などの法律の専門家に委託することも可能です。

 

逆に、遺言執行者が役割を果たせない場合もトラブルに発展することがあります。

遺言執行者にある権限は遺言内容を実現するためのものです。役割を果たしていないと遺言執行者解任申立が行われることもあります。

家庭裁判所が認定すれば遺言執行者は解任となります。

 

遺言があり遺言執行者がいるのであれば、相続財産は遺言通りに相続されることになります。

遺言執行者には遺言内容の実現を求めましょう。

 

 

遺言執行者を選定した方が良いケース

 

遺言執行者は様々な任務があり、相続に関する重要な役割です。

 

相続を円滑に行うためだけではなく、相続の内容によっては遺言執行者が必須のケースがあります。

特に、以下のような条件であれば遺言執行者を選定した方が良いでしょう。

 

遺産の規模が大きい

 

不動産や預貯金を複数所有していた場合などは、遺言執行者を選任した方が相続がスムーズに進むことがあります。

 

遺産の数や規模が大きいと、まず遺産の全体像を把握することに時間がかかります。

遺言執行者には財産目録を作成する義務が発生するため、必然的に遺産の全貌が明確になり、後腐れのない相続が実現することになります。

 

不動産の場合は名義変更が必要になります。相続人が名義変更の手続きを行わなければ相続が進みません。

遺言執行者には名義変更の権限が付与されるため、相続が円滑に進みやすくなります。

 

口座の名義変更や解約の手続きも遺言執行者が実行できます。

この際、遺言執行者がいなければ相続人全員の合意がないと預貯金の解約手続きを行うことができません

 

遺言執行者は基本的に単独で手続きを行うことができるため、相続が円滑に進むだけでなく、遺言書通りの相続を実現することができます。

 

遺言によって不利になる相続人がいるケース

 

故人の意志によって相続が不利になる相続人が発生する場合、その相続人が手続きに協力せず相続が進まないという事態に陥ることがあります。

 

遺言執行者を選任しておけば単独で相続を進めることができるため、トラブルを回避することができます。

 

相続の権利と相続の割合は法律で決められています。

しかし、相続人全員の同意があれば自由に分けることができるのです。

 

相続権を持つ人を法定相続人と呼びます。配偶者は常に相続人になります。

配偶者がいる場合でも以下の順位の高い相続人が相続することになります。

 

第一順位:子ども

第二順位:親、祖父母などの直系尊属

第三順位:兄弟姉妹

 

遺言による認知があるケース

 

遺言認知とは、遺言で自分の子どもであることを認知することです。

つまり、結婚していない相手との間に子どもがいるケースです。

 

遺言認知をしなければ、財産相続権がありません。

そこで、故人の亡くなったあとに親子関係を認めることが子の認知と呼ばれます。

 

遺言で認知をするためには、自筆証書遺言でも公正証書遺言でも構いません。遺言執行者は必須ですので必ず決めておく必要があります。

また、母親が誰なのか、認知する子どもの戸籍筆頭者、本籍、生年月日、住所、氏名を記載しておく必要があります。

 

遺言認知を行う場合、遺言執行者は就任から10日以内に子どもの本籍地の役所に認知の届けをする必要があります。

事前に遺言執行者に伝えて了承を得ておくと良いでしょう。

 

遺言執行者が決まっていない場合は、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらわないと子どもの認知ができません。

相続人に負担をかけないためにも遺言執行者を選任しておきましょう。難しい場合は弁護士や司法書士に依頼することも可能です。

 

遺言で相続人の廃除があるケース

 

相続人から相続権を、はく奪することが相続廃除です。

相続廃除ができるのは相続される人のみです。つまり、亡くなった故人以外は相続廃除の申し立てはできません。

 

廃除する相手は推定相続人の中でも遺留分を有する者のみです。遺留分とは最低限の遺産を受け取る権利のことです。

 

推定相続人とは、上述した第3順位までに該当する者です。遺留分を有する者というのは、その中でも第2順位までの者となります。

 

以下のようになります。

遺留分あり

配偶者

直系卑属(子ども、孫)

直系尊属(父母、祖父母)

遺留分なし

兄弟姉妹

 

相続廃除が適用されれば当人は何も相続できません。

 

相続廃除された相続人に子どもや孫がいる場合、そこに相続権が引き継がれます。

これを代襲相続と呼びます。代襲相続もしたくない場合は、相続廃除だけでなく遺言書にその旨を記載しておきます。

 

相続廃除が認められるには条件があります。要約すると以下のケースが相続廃除の対象となります。

 

・被相続人を虐待した場合

・被相続人に対して重大な侮辱をした場合

・その他の著しい非行があった場合

 

相続廃除には遺言執行者が必要になります。遺言者の死後に家庭裁判所に相続廃除の申し立てを行います。

必ずしも相続廃除されるわけではなく、家庭裁判所の判断になります。

 

相続の負担をかけたくない

 

遺産相続は不慣れなことであり、手続きが煩雑です。

法律的な知識が無い場合は相続人の負担になることがあります。

 

また、遺言執行者がいない場合は、相続人全員の合意が必要であり、意見が割れた場合は相続がうまく進みません。

相続がうまく進まないということは、故人の思いが伝わらないということです。

 

遺言執行者がいれば各種手続きを単独で行えるため、遺言書通りの相続を行いやすくなります。

相続をきっかけに親族が仲違いになってしまうことは避けたいものです。

 

ただし、遺言執行者に選任された人には負担がかかってしまいます。

 

親族に負担をかけたくない場合は弁護士や司法書士など法律の専門家を遺言執行者に指定することもできます。

 

 

遺言執行者になれる人・なれない人

 

遺言執行者になれない人は未成年者と破産者のみです。

2022年の民法改正により成年年齢は20歳ではなく18歳となりました。遺言執行者も18歳以上であれば就任することができるようになりました。

 

相続人から選ぶこともできますし、相続人ではない知人や友人でも構いません。

個人ではなく法人でも問題はありません。遺言執行者には多くの負担がかかる場合があります。

 

相続の利害関係に関わることになるので慎重に選びましょう。

 

弁護士や司法書士を選ぶ場合、個人を選ぶより法人を選ぶ方がメリットは大きいと言えます。

民法、税法など様々な法律が関係することがあるため、複数の法律の専門家を有している法人の方が幅広く対応可能です。

 

また、個人の場合は多忙や急病によってすぐに対応できない可能性がありますが、法人であれば柔軟に対応してもらうことができます。

 

遺言執行者は必ず指定する必要はありません。

相続が単純な場合や相続人が決まっている場合は相続登記も一人でできるため遺言執行者は必要ないでしょう。

 

 

遺言執行者の業務内容

遺言執行者就任の通知

 

令和元年の民法改正により遺言執行者は就任後にその旨をすべての相続人に通知することが義務付けられました。

通知する内容は「就任しました」という事実だけではなく、「遺言の内容」を通知する必要があります。

 

一般的には遺言書のコピーなどが用いられます。

 

通知する対象は相続人であり、遺贈の特定受遺者は対象とされていませんが、包括受遺者は相続人と同一の権利を有すると規定されているため通知しておいた方が良いでしょう。

 

相続財産の調査

 

遺言執行者は財産目録を作成し相続人や包括受遺者に交付する義務があります。相続財産には以下のものがあります。

 

不動産

名寄帳をもとに不動産登記事項証明書を確認します

有価証券

証券や株券をもとに証券会社などから残高証明書の交付を受けます

預貯金

金融機関に残高証明書や取引明細書を取り寄せます

貴金属などの動産

保証書や鑑定書があれば現物と合わせて引き受けます

債権など

債権の種類、契約内容、金額などを調査します

 

財産には上記のようなものだけでなく、借金や売掛金などのマイナスの財産も含まれます。

 

相続人の範囲の確定

 

遺言執行者は相続人を特定する必要があります。

そのために被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。

 

死亡した相続人がいる場合は代襲相続できる人がいるか確認する必要があるため、死亡した相続人の戸籍も調べる必要があります。

 

戸籍調査は弁護士や司法書士などの専門家に依頼することができます。

被相続人に離婚歴がある場合やすでに死亡している相続人がいる場合は戸籍調査が難解になってきます。古い戸籍謄本は読み取りそのものが困難な場合もあります、必要に応じて専門家に相談しましょう。

 

財産目録の作成

 

財産目録とは相続する遺産の種類、数量、所在、価額などをまとめた表のことです。

 

生前に作っておいてもらうのが理想ですが、財産目録が無い場合は遺言執行者が作成します。

相続人全員に相続する財産の全貌を知らせるための重要な作業になります。

 

書式などは明確には決められていません。その財産が存在することを確定できるような情報と評価額は明記しておくべきでしょう。

 

相続税にも関係してくるため、正確な財産目録の作成が求められます。

 

また、相続放棄や限定承認は相続開始から3ヵ月以内に行う必要があります。期限内に相続手続きを終えるためにも、弁護士や司法書士など専門家に相談しましょう。

 

指定相続人の廃除・認知の届出

 

相続廃除や遺言認知には遺言執行者が必須です。

遺言にその旨が記載されている場合は速やかに手続きを行います。相続廃除の申し立ては必要書類を家庭裁判所に提出します。

 

遺言認知は遺言書の効力が発生したとき、つまり遺言者が亡くなった時に成立します。

遺言執行者は就任から10日以内に認知の届出を役所に提出する必要があります。

 

期限が短いため、遺言執行者には遺言認知があることを伝えておくことが賢明でしょう。

 

不動産の移転登記手続き

 

不動産の所有者が亡くなった場合、相続人への所有権移転登記が必要となります。

また、遺言に従わない者が存在する場合は遺産引き渡し請求や抹消登記訴求請求が必要となることもあります。

 

相続登記には期限はありませんが、先延ばしにしていると相続人が亡くなってしまうと相続が煩雑になりかねません。

 

また、所有者が不明確なまま災害に遭ったり、近隣に被害を与えたりした場合はトラブルに発展することがありますので早めの手続きがおすすめです。

 

受遺者への財産の交付

 

受遺者とは遺言による財産の分与を受ける人もしくは法人のことを指します。

遺言書に受遺者が明記されていれば遺言執行者が受遺者に財産を交付します。受遺者は代襲相続ができません。

 

また、他の相続人が相続放棄をしても受遺する財産に変わりはありません。遺言書に書かれていることしか受遺できません。

 

まとめ

 

遺言執行者になること自体は難しくありませんが、実際に行う内容を考えると誰でも良いというわけにはいきません。

親族を遺言執行者にした場合、相続をめぐってトラブルになることもあります。

結果的に相続がうまく進まないということは、遺言通りに相続できないということになります。

 

遺言通りに相続を進めるためにも、法律の専門家である弁護士や司法書士にお願いすることも考えておいた方が良いと言えます。

 

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