この記事を要約すると
- 認知症と診断された患者から多額の寄付があった。
- 認知症と診断された場合、寄付は無効となる可能性が高い。
- 寄付が無効になるには意思能力の有無がカギ。
2023年4月下旬、金沢医科大学は、認知症の疑いがある患者から3億円の寄付を受けていたとの報道がありました。
この患者は一昨年亡くなった県内の会社経営者であり、生前に寄付を行っていたことが明らかになりました。寄付は金沢医科大学と主治医の関与によって行われたとされています。
この寄付に関して、報道によれば、遺族は寄付額が「極めて異常な額」であると主張しています。
3億円の寄付は一般的な寄付の範囲を大きく超えており、特に患者の認知症の状態を考慮すると、公序良俗に反しているとの主張がなされています。この異常な額の寄付が公共の秩序や倫理に反するとされ、無効とされるべきであるとの立場を遺族はとっています。
寄付とは?義援金や募金との違い
寄付とは、善意や好意、共感、意志を持って、お金や物品を提供する行為のことです。一般的には、自らの意思で金銭や品物などを無償で提供することを指します。
寄付の対象には、国や行政以外にも博物館や図書館を含む教育機関、医療機関、災害被害にあった人など様々なものがあります。寄付にはお金だけでなく、品物を贈る場合もあります。
寄付と似たような言葉で、義援金や募金といった用語を聞いたことがあるかと思います。以下でその違いを解説いたします。
寄付と義援金の違いは?
義援金は主に災害や困難な状況にある人々への支援を目的とした寄付金のことです。具体的には、日本赤十字社や赤い羽根共同募金などの組織に送られる寄付金が義援金として知られています。
また、義援金は被災地や困難な状況に直接的な支援が必要な場合に集められ、支援先の被災地や支援活動の状況に応じて使途が決定されます。
寄付と募金の違いは?
募金は団体や機関が行う募金活動において、多くの人から少しずつお金を集める行為のことです。寄付は自分自身が自発的にお金や物品を提供する行為であり、募金は団体や機関がお金を集める活動のことを指します。
寄付は法的行為になりえる?
一般的に、寄付は寄付者から直接寺社、学校等に寄付される場合、その法的性質は、民法上の贈与(民法第549条)その他の契約とされています。
寄付者が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、寄付を受ける側が受諾をすることによって寄付が成立します。
民法上の意思能力について
意思能力とは、法律行為の当事者が、自分の行為の結果を認識し、その結果を自分の意思で決定することができる能力のことです。
意思能力を有するか否かは、法律行為が行われた時点における当事者の状況や精神状態などに応じて判断されます。一般的には、10歳未満の子供や泥酔者、重い精神病や認知症である者には、意思能力がないと言われています。
平成29年の民法改正
「民法3条の2」平成29年の民法改正で新設された規定です。
民法改正以前は、意思能力のない者の行なった法律行為は、相対的無効とされていました。相対的無効とは、意思能力のない者の側からのみ法律行為の無効を主張できるというものです。
しかし、民法第3条の2では、意思能力のない者の行なった法律行為は、無効と明確に規定されました。これにより、意思能力のない者の行なった法律行為について、保護者が保護される範囲が広がることになりました。
民法93条
民法93条では、「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」と規定しています。
この条文は、「心裡留保」と呼ばれる概念について規定しています。心裡留保とは、表意者がその意思表示をする際に、真意ではないことを知りながらも効力を持つという原則です。
心裡留保による意思表示の具体例としては、ジョークや冗談のようなものが挙げられます。例えば、冗談で「100万円で売る」と言った場合、それを真に受けて100万円を支払うと契約が成立することになります。
なお、平成29年の改正により、民法93条には善意の第三者を保護するための規定も追加されました。この規定により、善意の第三者が関与する場合においても心裡留保が認められるかどうかについて、より具体的な取り扱いが明確化されました。
民法95条
民法95条は、錯誤に関する規定です。錯誤とは、表意者が意思表示をする際に、意思と表示が一致していないことをいいます。錯誤には、次の2種類があります。
表示の錯誤:表意者が意思と異なる意思表示をすること
動機の錯誤:表意者が、意思表示をする動機が真実ではないこと
このような錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、意思表示は無効となります。
「表示の錯誤」とは、意思表示が行われた時点で表意者がその意思に対応する意思を持っていない錯誤のことです。一方、「動機の錯誤」とは、意思表示に至る過程で表意者が事実の認識に誤りがある錯誤のことを指します。
意思能力が無いものがした法律行為は有効か?
一般的に意思能力がない人が法律行為をした場合は、その法律行為は無効とされます。無効となる理由は、法律行為そのものが効果を生じないからです。
民法第3条の2により、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有していなかった場合、その法律行為は無効とされます。
認知症と診断されたら意思能力を欠くのか?
認知症と診断された場合、意思能力の有無は個別の状況によります。認知症は一般的には認知機能の低下を特徴とする疾患であり、判断力や記憶力などの認知機能に障害が生じます。しかし、認知症の進行度や症状の程度によって、意思能力の有無は異なる場合があります。
例えば、認知症と診断されても1人で生活している人や仕事をしている人はいらっしゃいます。なので、認知症と診断されたからといって、意思能力が無いと判断するのは難しいでしょう。
認知症患者が法律行為を行う際には、その人が意思能力を有しているかどうかが重要な判断基準となります。しかし、認知症の進行に伴って判断力や記憶力の低下が進み、意思能力が欠ける場合が一般的です。
意思能力を有していないと判断された場合、法律行為は無効とされるケースが多いようです。したがって、認知症と診断された場合は、その人の状態や症状に基づいて意思能力の有無を判断する必要があります。
専門家である医師や弁護士に相談し、適切な判断を行うことが重要です。
今回のニュースに当てはめると
今回のケースでは、認知症の疑いがある患者に3億円の寄付をさせたのは公序良俗に反し無効だとして、患者の遺族3人が金沢医大(石川県内灘町)と主治医に、寄付金の返還と2億4000万円余りの賠償を求める訴訟を提起しました。
本ケースの争点は寄付した患者に民法上の意思能力があったかどうかという点です。患者が認知症の診断を受けていて、ある程度進行していれば法律行為はできないでしょう。
もし寄付の時に仮に認知症が進んでいて意思能力がなかったとしたら、法律行為にあたる寄付は無効になると考えるのが一般的だと思います。民法上の寄付の有効性には、寄付者の意思能力や寄付の自由意思の存在が重要な要素となります。
寄付者が認知症の状態であり、意思能力が不十分である場合、寄付者の行為は無効とされる可能性が高いです。したがって、金沢医大への3億円の寄付が民法上有効かどうかの最終的な判断は裁判所に委ねられますので、現時点での結論はまだ不明確です。
裁判所は、公序良俗や意思能力などの要素を総合的に考慮し、寄付の有効性について判断することとなるでしょう。
遺贈寄付とは?遺贈と何が違うの?
遺贈寄付とは?
「遺贈寄付」とは、個人が遺言によって自身の遺産の一部または全部を公益法人、NPO法人、学校法人、国立大学法人などの団体や機関に寄付することです、
遺言によって特定の団体や個人に自身の遺産を譲渡(贈与)することで、社会貢献活動や公益のために遺産を活用することができます。遺贈寄付を行うためには、遺言書に明確な意思を記載する必要があります。
遺言書は、自身の死後に遺産の譲渡や配分を行うための法的な文書です。遺言書には、遺産の具体的な相続先や分配方法、遺贈寄付の対象団体や機関の指定などを明示することが重要です。
遺贈とは?
遺贈寄付に似た言葉で遺贈という言葉があります。遺贈とは、亡くなった人が遺言によって自分の財産を特定の人や団体に贈ることを指します。遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」という2つの種類があります。
それぞれわかりやすく説明すると、以下のようになります。
- 遺贈は、亡くなった人が遺言によって自分の財産を贈る行為。
- 包括遺贈は、財産の内容を具体的に指定せずに相続人以外の人や団体に贈ることができる。
- 特定遺贈は、具体的な財産や特定の相手に対して贈ることができる。
遺贈によって、亡くなった人の意思や思いが引き継がれ、自分の財産が社会貢献に役立つことが期待されます。
遺贈寄付のメリットは?
遺贈寄付は、亡くなった人が遺言によって自分の財産を特定の団体や個人に無償で寄付し、社会貢献に役立てることです。以下に、遺贈寄付のメリットを示します。
- 社会貢献: 遺贈寄付によって、亡くなった人の財産が社会のために役立つことができます。寄付先の団体や個人が、その資金や資源を社会的な活動や支援に活かすことで、多くの人々の役に立つことが期待されます。
- 遺志の実現: 遺贈寄付は、亡くなった人の遺志や思いを実現する手段です。自分が生きている間に築いた財産を特定の目的や活動に使ってもらうことで、自分の意志や価値観が後世に継承されることが可能です。
- 節税効果: 遺贈寄付は、相続税の節税効果があります。遺産を寄付することによって、相続税の課税対象額が減少し、相続人による負担を軽減することができます。
- 社会的な評価: 遺贈寄付は社会的に高く評価される行為です。自分の財産を社会のために寄付することで、人々から感謝されることや賞賛が得られることがあります。
遺贈寄付は、自分の意志や思いを引き継ぎながら社会貢献をする方法です。将来的に自分が行いたいと考えている社会的な活動や支援に資金を提供することで、社会に貢献することができます。
まとめ
本記事では認知症と診断された患者の寄付は無効となるのかについて、民法改正などを交えて解説しました。認知症の程度は人それぞれであり、意思能力の有無もそれぞれのケースで判断が異なってくるでしょう。
公序良俗に反しているかどうかや、寄付が有効であるかどうかは、寄付の際の患者の意思能力や情報提供の有無、遺産分割への影響など、複雑な要素を考慮する必要があります。
高齢化社会ではこうしたケースが今後も増えてくる可能性が高いです。トラブルを防ぐためにも、意思能力の有無や遺贈、遺贈寄付に関することは専門家にご相談ください。
今回のニュースはまだ判決が出ていません。今後のニュースの続報を追って、改めて解説します。寄付の気持ちは大変素晴らしいものですが、残された遺族のことまで考えて事前に対策したほうがよいでしょう。
この記事の監修者
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