8つの改正点をコンパクトに解説します
2018年に相続法が改正されたことで、2019年から段階的に相続に関する法律が変更・新設されています。
そこで今回は、新たに新設・変更された8つの改正相続法を、わかりやすくコンパクトにご紹介いたします。
相続法改正で変わった8つのポイント
次の通り民法の規定に新設・変更された項目と日付を示します。
1.配偶者住居権の新設:2020年4月1日から
2.夫婦間での居住用不動産の贈与の優遇:2019年7月1日から
3.預貯金の払戻し制度の新設:2019年7月1日から
4.自筆証書遺言の方式の緩和:2019年1月13日から
5.法務局での遺言の保管制度の新設:2019年1月13日から
6.遺言の活用:なし
7.遺留分制度の見直し:2019年7月1日から
8.特別の寄与の制度の新設:2019年7月1日から
民法改正8つのポイント
ここでは民法改正の各項目をコンパクトにご説明いたします。
1.配偶者住居権の新設
これまでは建物と現金の遺産を残して故人が亡くなって建物を相続した場合、現金の取得分が減ってしまい、生活費が十分に確保できないケースがありました。
今回新設された「配偶者居住権」によって住む権利として考えるようになるため、「所有権」や「負担付き所有権」とは違う考え方で、住む権利が認められるようになります。
2.夫婦間での居住用不動産の贈与の優遇
婚姻期間20年以上という条件があるものの、これまで故人が生前に住宅などの不動産を贈与した場合、故人が亡くなった後に生前贈与を受けた分を差し引いて相続が行われていました。
今回変更されたことによって、生前贈与を受けた住宅などの不動産は遺産相続時に算出されなくなったため、現金や不動産全てを含めた遺産で取得分を算出するようになります。
3.預貯金の払戻し制度の新設
相続人が複数いた場合、これまでは遺産分割が終了するまでは単独で払戻しを受けることができませんでしたが、故人の葬儀を行う相続人は単独で一部の払戻しを受けることができるようになりました。
4.自筆証書遺言の方式の緩和
これまでは遺言書は全て手書きにする必要がありましたが、今回の改正で財産目録はパソコンで作成できるようになりました。
5.法務局での遺言の保管制度の新設
これまでは遺言書を故人が保管する必要がありましたが、今回新設されたことによって、法務局が遺言書を預かることができるようになり、確実に遺言書を執行できるようになりました。
6.遺言の活用
今回の改正で法務局は国民に遺言書の活用を呼びかけています。呼びかけだけなので、施行日は特に定められていません。
7.遺留分制度の見直し
「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」と呼ばれるようになり、例えば現金は小額しか残されていないが、土地や建物の評価額が高い資産を残して亡くなった会社経営者の故人の場合、複数の相続人の間で会社の経営に関わっていないにも関わらず、会社の土地や建物を共有状態にすることで、遺産全てに効力が及んでいましたが、今回の改正で土地・建物などを売却して現金のみ請求できるようになりました。
8.特別の寄与の制度の新設
遺産相続は故人の子供や夫・妻・甥・姪など血縁者に限定されますが、例えば夫の妻が故人の看護や介護を行なっていた場合、これまでは遺産を相続できませんでしたが、「特別な寄与を故人に行なった」として相応の金額を請求できるようになりました。
民法改正まとめ
このようにこれまでの遺産関係の法律が改正された改正相続法では、相続に関して緩和されたものや新設されたものがあるので、遺言書の作成をお考えの方などはしっかり把握しておくようにしましょう。
また2019年相続法の改正がなされ一般の方にもっとも影響するのが預金に関する部分かと思います。
遺産分割をして相続分を確定しなくても、1口座について150万円もしくは各口座残高に対する相続分の3分の1までの、どちらか多い額を預金引き出しできるようになりました。
とはいえ、「相続分の3分の1」という制限を自ら計算しなければいけないし、その前提として相続人の範囲を確定させなければ請求できないので時間も費用もかかるものです。
相続人の範囲を確定させるには戸籍を必要なものをすべて取得する必要があります。本籍地をいくつか移動しているケースも中にはあるので2か月、3か月かかることもあります。
このように改正により預金を引き出せるようになったからといっても、相続人は範囲確定などで時間を要していれば、葬儀費用の準備もできないということになりかねません。
また、遺産分割前の預金引き出し150万円までという制限があります。仮に相続税が発生すれば何百万、何千万という金額を請求されるのでとても対処できないのではないでしょうか。相続税は亡くなってから10か月以内に納税しなければいけませんので準備しておくことが絶対に必要です。
配偶者居住権について
夫婦と旦那の両親で暮らしていたが、両親のうち父親が亡くなった場合、世間でよくあるのが嫁姑問題である。ことの結末として家を売却し、息子夫婦、母親ともに別居、母親が賃貸アパートを探すというものです。高齢女性はアパートを借りづらいでしょうから、自ずとハードルが上がります。
こんなケースに配偶者居住権が活用できます。母親が死ぬまでは自宅に住み続けられるようにしたいというニーズに加え、母親が亡くなった後、スムーズに子供が自宅を相続できるようにするために、自宅は子供に相続させたいというニーズを両立できるようになりました。
また、夫名義の不動産について、妻には配偶者居住権を残し、不動産は夫の兄弟など一族に残したいというような使い方もできます。妻が亡くなった後、配偶者居住権は消滅するので、最後は夫の一族が土地建物を使えるということです。
配偶者居住権を取得するには、居住権者となる配偶者が相続開始時にその家に住んでることが必要です。例えば、妻が別居している場合は取得できませんが、夫死亡時に夫が別居し妻がその家に住んでいれば取得できます。ただし、配偶者居住権を第三者に主張するには登記をする必要がありますのでご注意ください。
なお配偶者居住権は権利ではありますが、この権利を売却することはできません。つまり配偶者居住権をもった妻が家に住まなくなった場合、所有者の承諾があれば転貸できますが売却することはできません。